2026年上半期、日本の美術館は多彩な顔を見せてくれます。
印象派の巨匠クロード・モネの没後100年を記念した大規模展から、戦後京都で生まれた反骨的な日本画の数々、1990年代イギリスを席巻した現代アートムーブメント「YBA」の日本初大規模展、そして20世紀アメリカ具象絵画の巨匠アンドリュー・ワイエスの待望の回顧展まで。西洋と日本、古典と現代、絵画と彫刻とデザイン。時代もジャンルも越えた11の展覧会が、2026年1月から6月にかけて開催されます。
東京、大阪、京都の主要美術館を中心に、どの展覧会も「今この時期だからこそ見られる」特別な構成です。オルセー美術館やテート美術館からの名品、国内美術館が誇るコレクションの全貌、そして日本初公開作品の数々。この記事では、開催時期と共に各展覧会の見どころを紹介していきます。あなたの関心に響く展覧会が、きっと見つかるはずです。
1月〜3月開幕の展覧会(冬から春へ)
たたかう仏像(静嘉堂文庫美術館)

新年最初の注目展は、武装して目をいからせた仏像たちが集結する展覧会です。浄瑠璃寺旧蔵の十二神将立像(重要文化財)を中心に、如来や菩薩といった悟りの位も、制作時代もさまざまな「たたかう仏像」が一堂に会します。
見どころは3つ。まず、十二神将が前後期で勢揃いすること。それぞれが十二支と結びつき、時間や方角を司る夜叉神たちです。2026年の干支である巳にちなんだ宮毘羅像も展示されます。次に、中国・唐時代の「加彩神将俑」が丸の内で初公開されること。日本の神将像のルーツとなった副葬品で、鎌倉時代の仏像より約500年前のものです。そして、四天王や十一面観音、春日厨子など多様な仏像が揃い、「何とたたかうのか」「何を護るのか」という問いを投げかけてくれます。
趣のあるレトロで上品な静嘉堂文庫美術館で、怒った顔の仏像たちに出会える貴重な機会です。
たたかう仏像
会期: 2026年1月2日〜3月22日
会場: 静嘉堂文庫美術館(東京都)
モダンアートの街・新宿(SOMPO美術館)

SOMPO美術館の開館50周年を記念し、新宿という土地に焦点を当てた展覧会です。日本の近代美術の歴史において、新宿は欠かせない場所でした。
明治末期、1909年に中村屋が新宿に移転し、芸術家や文人たちが集うサロンとなりました。また1904年には太平洋画会研究所が開設され、後に佐伯祐三らが住んだ落合アトリエ村も形成されます。1923年の関東大震災で銀座が被害を受けた後、新宿は新たな社交場として発展しました。
展覧会では、新宿で活動した芸術家たちの作品が並びます。結核と闘いながら情熱的に描き続けた中村彝、パリで画業の大半を過ごしながら新宿にアトリエを構えた佐伯祐三、理知的な画風と文筆活動で知られる松本竣介、日本とヨーロッパを拠点に活動した彫刻家・宮脇愛子。約半世紀にわたる新宿ゆかりの芸術家たちの軌跡を、新宿の美術館として初めてたどる試みです。
西洋の模倣から脱却し、日本の土壌で独自の表現を確立した「正統かつ異端の後継者たち」の作品を、ぜひ体験してください。
モダンアートの街・新宿
会期: 2026年1月10日〜2月15日
会場: SOMPO美術館(東京都)
東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき(東京都美術館)

近年世界的に注目を集める、スウェーデン美術黄金期の絵画を本格的に紹介する展覧会です。スウェーデン美術の黄金期とは、1880年代から1915年頃を指します。この時期は、ロシアやポーランドでも美術が開花した時代でした。
本展の特別協力は、1792年に開館した欧州で最も歴史ある美術館の一つ、スウェーデン国立美術館です。王室コレクションをルーツとする収蔵品の中でも、「画家王子」と呼ばれたエウシェーン王子のコレクションは、北欧美術を語る上で欠かせません。王子自身も象徴主義の画家であり、パトロンとして多くの芸術家を支援しました。
全6章で構成された展覧会は、フランスに学んだ写実的な風景画から始まり、次第にスウェーデンの宗教や寓話にまつわる主題へと移ります。自然豊かな土地ならではの、森林や湖、澄んだ情景の中に物語性を感じる作品たち。明るい陽光から神秘的な夕暮れへと好みが移り変わっていく様子を、ぜひ追体験してください。
東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき
会期: 2026年1月27日〜4月12日
会場: 東京都美術館(東京都)
巡回:(山口県)山口県立美術館@2026年4月28日―@2026年6月21日
2月〜3月開幕の展覧会(革新と伝統)
特別展 日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970(京都市京セラ美術館)

「これが日本画!?」と驚きの声が上がるような、戦後京都で生まれた反骨的な日本画の創造運動を総覧する展覧会です。
本展は、1940年代以降に結成された3つの美術団体を中心に構成されています。まず「創造美術」は、官展から脱却した団体で、上村松篁や秋野不矩らが参加しました。秋野不矩はインド滞在をきっかけに、柔らかい色合いながら面で迫力を持たせる画風を確立した作家です。次に「パンリアル美術協会」は、京都市立芸術大学の卒業生が中心となり、アカデミック絵画を批判しました。三上誠は肺結核で苦しみながら、自らの体内や宇宙の真理へ表現を向けた作家です。そして「ケラ美術協会」は、細胞の単位を意味する名を冠し、より自由で奔放な活動を展開しました。岩田重義は絵画という平面にとどまらず、立体物や廃品、文字などを組み合わせた社会的メッセージ性の強い作品を発表しています。
堂本印象、秋野不矩、上村松篁など、今や現代日本画を語る上で外せない巨匠30名超が集結します。終戦後、戦争画から民主主義国家にふさわしい芸術へと転換を迫られた時代。海外の情報が一気に流入し、日本画の世界に危機感が広がる中で、世界に通用する表現として生まれた「これが日本画?」と問いたくなる作品たちを、ぜひ目撃してください。
特別展 日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970
会期: 2026年2月7日〜5月6日
会場: 京都市京セラ美術館(京都府)
モネ没後100年 クロード・モネ ー風景への問いかけ(アーティゾン美術館)

モネ没後100年を記念した、前例のない全く新しいモネ展です。オルセー美術館から約90点、アーティゾン美術館所蔵の41点、そして国内の美術館や個人蔵作品を加えた約140点が、全13章構成で展示されます。
本展の革新性は、モネの画業を年代順に追うだけでなく、同時代の画家たちの絵画や写真、浮世絵、アール・ヌーヴォーの美術工芸など、さまざまなジャンルの視覚表現と交錯させている点です。作品単体ではなく、同じ時代のアナザーストーリーを見せるアーティゾンらしい構成と言えるでしょう。
特に注目したいのは、現代作家がモネにオマージュを捧げた映像作品です。ジヴェルニーで撮影されたビデオ作品で、1986年にヴェネツィア・ビエンナーレのフランス館でフランス代表として出展した作家による日本初公開作品です。そしてオルセー美術館が誇るモネ・コレクションから選りすぐりの作品が来日し、日本初出品も多数含まれています。
早割チケットは1800円。東京駅周辺美術館共通券も利用できます。巡回しない展覧会のため、この機会を逃さないようご注意ください。
モネ没後100年 クロード・モネ ー風景への問いかけ
会期: 2026年2月7日〜5月24日
会場: アーティゾン美術館(東京都)
テート美術館 ーYBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート(国立新美術館)

1990年代イギリスを席巻した「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」と、その影響を受けた90年代英国アートの決定版展覧会です。イギリスの国立近代美術館であるテート美術館の所蔵作品から、約60名の作家による約100点を通じて、革新的な創作の軌跡を検証します。
YBAの象徴的存在がダミアン・ハーストです。彼が仲間たちと開催した自主企画展がYBAの始まりであり、革命家でありプロデューサーとして世界に衝撃を与えました。YBAの作家たちは伝統的な手法にこだわらず、スキャンダラスな表現と起業家のようなビジネスセンスを武器に、アートをポップカルチャーなど大衆文化のような熱狂にさらしました。
注目作家の一人が、ヴォルフガング・ティルマンスです。《座るケイト》(1996年)に代表される彼の写真作品は、90年代の若者文化を記録したものです。完璧に作り込まれたファッション写真ではなく、日常の生々しさや自由な空気感をアートとして切り出しました。
「常識は覆される」というキャッチコピーが示すように、音楽×サブカル×ファッションの熱狂と呼応するアートを体験できる展覧会です。
テート美術館 ーYBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート
会期: 2026年2月11日〜5月11日
会場: 国立新美術館(東京都)
生誕185年 ルノワール展(山王美術館)

「おそらくルノワールは悲しい絵を一度も描かなかった唯一の偉大な画家でしょう」。フランスの小説家オクターヴ・ミルボーが1913年に寄せた言葉です。ルノワール自身も、いやなことが多い人生において、絵画は「愛すべきもの」「愉しく、美しいもの」でなければならないと晩年に語っています。
山王美術館は約600点におよぶコレクションを所蔵する私立美術館です。本展では、初公開11点を含む全コレクション約50点を一堂に公開します。5年前の生誕180年展では39点でしたから、コレクションが増えているのです。
ルノワールは貧しい家の息子として生まれ、青年時代は苦しい生活が続きました。また戦争による死別、晩年の重度のリウマチにより腕を上げることも困難な状況でした。それでも「痛みは去るが、美は残る」と言葉を残し、手に絵筆を包帯でぐるぐる巻きにして亡くなるまで絵を描き続けました。
本展では、印象派の時代、伝統を重視した時代、晩年の病に苦しみながらの時代という変遷を追います。さらにギリシャ神話を題材とした作品も含まれています。肖像、風景、静物、家族、裸婦とさまざまな主題に温かく愛情に満ちた眼差しを注いだルノワールの世界を、一私立美術館の全コレクションで体験できる貴重な機会です。
生誕185年 ルノワール展
会期: 2026年3月1日〜7月31日
会場: 山王美術館(大阪府)
3月〜6月開幕の展覧会(春から初夏へ)
下村観山展(東京国立近代美術館)

「あなたはまだ知らない、期待の天才」というキャッチコピーが掲げられた展覧会です。岡倉天心の教えを受け、横山大観や菱田春草とともに「天心の三羽烏」と称された下村観山。150件超の傑作が集結する、45年ぶりの大規模回顧展です。
横山大観といえば気魄を感じるエネルギーの塊のような作品、菱田春草といえば理論派で朦朧体をさらに進めた独自の色彩表現。では下村観山といえば?現在は二人に比べ知名度が低いかもしれませんが、日本画に西洋画の空間表現を取り入れた人物として美術史上重要な位置を占めています。
観山は30歳のときイギリスに2年間留学し、大英博物館やウフィツィ美術館などを巡り模写しました。ラファエロらの油絵の柔らかい明暗を、日本画の画材である紙や絹に水彩画で模写したのです。本展では、その模写作品が大英博物館から里帰りします。
また、実業家の原三渓をはじめとする「観山会」という財界人による支援団体がありました。特に渋沢栄一の依頼で描いた楓の作品が本展に展示されます。単眼鏡を貸してくれるチケットもあり、観山の細かく美しい筆致を満喫するには虫の目で見なさいというメッセージでしょうか。大和絵の装飾性と西洋の写実性を融合させた超絶筆技を、ぜひ間近でご覧ください。
下村観山展
会期: 2026年3月17日〜5月10日
会場: 東京国立近代美術館(東京都)
巡回:(和歌山)和歌山県立近代美術館@2026年5月30日-7月20日
ゴールドマンコレクション 河鍋暁斎の世界(サントリー美術館)

幕末・明治期に活躍した絵師、河鍋暁斎の世界屈指のコレクションが日本で公開されます。9年前にBunkamura ザ・ミュージアムで開催されたゴールドマンコレクション展から、さらにボリュームアップした約100点が展示されます。
河鍋暁斎は狩野派の流れを受けていますが、その画風と姿勢はとても激しく、「絵の鬼」と呼ばれました。暁斎の「狂」の字も、元々は「狂った」という字を使っていたほどです。7歳のとき歌川国芳に入門し、国芳の教えに従い毎日ケンカや口論をし、終いには生首を写生して帰ってきたため大騒ぎになりました。父親が心配してその後狩野派に入門しますが、花鳥画から仏画まで何でも描く圧倒的な画力は、岡倉天心から東京芸術大学の教授にならないかとオファーが来るほどでした。死ぬ3日前も絵を描きたいという衝動で、震える体で障子に自分と棺桶を描いていたと伝えられています。
このコレクションを収集したのは、ロンドンを拠点に活動するアメリカ出身の美術商、イスラエル・ゴールドマンです。ハーバード大学卒業後、日本浮世絵商協会の副理事を務め、ロンドンのロイヤルアカデミー・オブ・アーツで河鍋暁斎の展示を開催し、暁斎が海外で正当な評価を受ける重要な機会を作りました。40年以上にわたり収集された愛あるコレクションから、日本初出品の作品も多数見られます。
ゴールドマンコレクション 河鍋暁斎の世界
会期: 2026年4月22日〜6月21日
会場: サントリー美術館(東京都)
巡回:(兵庫県)神戸市立博物館@2026年07月11日-09月23日(静岡県)静岡県内2026年10月10日-12月06日(予定)
東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展(東京都美術館)

20世紀アメリカ具象絵画を代表する画家、アンドリュー・ワイエスの没後初となる日本での回顧展です。副題は「Boundaries(境界線)」。戦後のアメリカで抽象表現主義やポップアートが脚光を浴びる中、ワイエスは画材も題材も古風なものを選んで絵を描き続けました。
30歳でアメリカ美術文芸アカデミーとニューヨーク国立美術文芸協会より功労賞を受賞し、他多数の芸術賞を受けながらも、本人はずっと田舎で暮らしていました。新しいものを探すでもなく、同じ場所、同じ窓、同じ木を何十年も見続けています。その集中力は時間が止まったような錯覚さえ起こす作品を生み出しました。
本展が注目するのは、ワイエスの作品に数多く描かれる「窓」や「ドア」といった境界を示すモチーフです。ワイエスは300点以上の窓を描いたと言われています。「窓は、私たちが閉じ込められている場所であると同時に、私たちが唯一呼吸できる場所でもある」と語ったように、内面と他者との境目、現世との距離や繋がりを窓に投影していました。
彼はこう語っています。「私が死んだら、私の絵から人間がいなくなり、ただその場所だけが残るだろう。しかし、その場所には私の息遣い(気配)が永遠に留まり続けるのだ」。静寂、孤独、喪失感。失われることを恐れず、むしろ失われた後の静けさの中にこそ真実があるとワイエスは伝えてくれます。
1974年に東京と京都で開催された展覧会では32万人を動員しました。あれから50年以上が経ち、待望の回顧展です。
東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展
会期: 2026年4月28日〜7月5日
会場: 東京都美術館(東京都)
巡回:(愛知県)豊田市美術館@2026年7月18日-9月23日(予定)(大阪府)あべのハルカス美術館@2026年10月03日-12月06日
エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる(アーティゾン美術館)

20世紀イタリアデザインにおける世界的な巨匠、エットレ・ソットサスの展覧会です。石橋財団所蔵の初期から晩年まで112点を一挙公開します。財団所蔵だけで構成される展覧会というのは、デザイン作品としては異例のボリュームです。
ソットサスが1980年代に結成したデザイン集団「メンフィス(Memphis)」は、当時主流だった「形態は機能に従う」というモダンデザインへの反旗を翻し、ポストモダン・デザインという潮流を生み出しました。モダンデザインが産業革命と機械化産業の影響を受けた「レス・イズ・モア」のスッキリと洗練されたデザインであるのに対し、ポストモダンは遊び心がポイントです。経済も心も豊かだった時代だからこそ生まれた華やかなデザイン様式でした。
ソットサスのデザイン哲学は明確です。「デザインは、機能を満たすだけのものではない。人生の儀式の一部であり、世界とどのように繋がるかを示すものである」。機械化に従うデザインではなく、消費者が個性の表現として使えるもの、キャラクター形成の延長となるべきだと説いています。だからこそ、ここにしかない奇抜で自由なものが生まれたのでしょう。
デザイン史を語る上で外せない人物の、日本初となる本格的な回顧展です。
エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
会期: 2026年6月23日〜10月4日
会場: アーティゾン美術館(東京都)
まとめ
2026年1月から6月にかけて、日本の美術館では11の多彩な展覧会が開催されます。
武装した仏像たちの表情から、新宿という土地が育んだ近代芸術家たち、北欧の光を描いたスウェーデン絵画、戦後京都の反骨的な日本画、モネ没後100年の大規模展、1990年代イギリスの現代アートムーブメント、愛と痛みを描き続けたルノワール、西洋と日本を融合させた下村観山、絵の鬼・河鍋暁斎のキモ可愛い世界、静寂と境界を描いたワイエス、そしてポストモダン・デザインの巨匠ソットサスまで。時代もジャンルも越えた作品たちが、それぞれの美術館で待っています。
印象派に惹かれる方も、日本画の革新に興味がある方も、現代アートやデザインに関心がある方も、きっと心に響く展覧会が見つかるはずです。会期が重なる展覧会も多いため、複数の展覧会を組み合わせて巡るのも楽しいでしょう。2026年上半期、あなた自身の関心に沿って、美術館での豊かな時間をお楽しみください。


コメント