2025年『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』OPに登場する名画まとめ|全24作品の元ネタ徹底解説!

作品解説

2025年公開の映画『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』のオープニングでは、「どこかで見たことのある」名画が次々と登場します。ゴッホの《星月夜》、ムンクの《叫び》、そしてクリムト、ミュシャ、琳派や浮世絵など、西洋と日本の名画がアニメーションと融合する美しいシーンの数々。その圧倒的な映像美の裏には、実在の芸術作品へのオマージュが込められています。

私も早速映画を見に行ってきました。ストーリーの冒頭、道具紹介として登場した数々の名画たち…!いやあ贅沢な始まり方でした。

本記事は、ネタバレなしでお楽しみいただけます。この映画OPに登場するアートの元ネタを一つひとつ紐解き、どのシーンがどの名画に由来しているのかをわかりやすく解説します。映画ファンも、美術ファンも楽しめる「絵世界の旅」はじまりです!

アルフォンス・ミュシャ《椿姫》

まず最初にのび太たちが飛び込んだ絵画は、アールヌーボーの代表画家、アルフォンス・ミュシャの作品です。

《椿姫(La Dame aux Camélias)》は、19世紀末のフランスで活躍した伝説的女優サラ・ベルナール主演の舞台の宣伝ポスターとして描かれました。髪の流れ、衣服の細部、背景の幾何学模様に至るまで、女性の美しさと自然の調和を優美に表現しています。

アルフォンス・ミュシャ「椿姫」1896

ミュシャは「装飾的で夢のような世界」をポスターという大衆的なメディアに落とし込んだ画家です。今回のドラえもん映画でも、その幻想的で親しみやすい画面構成が、しずかちゃんの優しさや品の良さと重なり、視覚的にも物語的にも自然に取り込まれています。

タイトルが登場する時の外枠も、ミュシャの作品オマージュですね。よく見ると、ドラえもんの鈴や猫の装飾に変わっていますね。

フィンセント・ファン・ゴッホ《星月夜》

タケコプターで上空に位置する次の光の入口に突入すると、そこはゴッホの名作「星月夜(The Starry Night)」
夜空にうねる雲、渦巻く星、月の光のきらめきがアニメーションでダイナミックに再現され、視覚的なインパクトと詩的な美しさを同時に感じさせます。

ゴッホがサン=レミの精神療養院にいた時期に描かれた《星月夜》は、彼の内面の激しさと、自然の神秘的な力を同時に表現した作品です。実際の風景をもとにしながらも、渦巻くような筆致で夜空をダイナミックに描き、幻想的な世界を生み出しています。

ゴッホ「星月夜」1889年MoMA

アニメーションで再現されたうねうねと動きのある星空は、まさにゴッホが深い夜の時間に病室からみつめた夜景そのもの。ゴッホが感じた「うねうね」が、アニメーションで再現されていてテンションがあがりました。

エドヴァルト・ムンク《叫び》

画面下からムンクの肖像が現れると、空模様が一気に真っ赤に変わりました。

背景にはぐにゃりと歪んだ空、赤やオレンジの異様な空気感が漂い、キャラクターたちの表情も強調されています。この場面は、エドヴァルド・ムンクの代表作《叫び》の構図・雰囲気をそのまま再現した明確なオマージュです。

エドヴァルド・ムンク「叫び」1893年

ムンクの《叫び》は、ただ叫んでいる人物を描いたのではなく、「自然を貫く叫び」から耳を塞いだ作品です。背景の渦巻く空、橋の上の人物、遠くに立つ2人の影など、心理的緊張を構図で表現しています。現代人の不安や孤独の象徴として、ポップカルチャーにも数多く引用されてきました。
表現主義の先駆者として、心理的表現を絵にのせる表現でした。現代では気持ちを絵に込める、というのは聞いたことあるような感覚ですが、20世紀初頭、それはとても斬新な描き方だったのです。

じつはムンクの「叫び」は複数現存しています。さらにムンクは痛ましい窃盗事件に巻き込まれた過去もある、悲劇の名画でもあるのです。

グスタフ・クリムト《生命の樹》

ここから次々と画面が切り替わり、音楽のテンポに合わせてのび太たちの名画の旅がつぎつぎ展開されていきます。

渦巻き状の枝がにょきにょきと生えてきて、あっというまに大きな木になっていくアニメーション。これはウィーン分離派の芸術家、クリムトの作品です。

グスタフ・クリムト《生命の樹》1905-1909年頃

《生命の樹》は、枝が渦巻くように伸び、自然と人間、愛、死と再生を象徴的に結びつけた作品です。壁画として制作され、左に女性像《期待》、右に《抱擁》を配した構成になっています。

ドラえもんには両脇の人物はなくなっていますが、大樹の存在感は健在ですね。金箔や装飾文様を大胆に用いたその世界観は、絵画というより“空間そのもの”のような印象を与えます。

葉に位置する箇所には目玉がパチパチと現れています。ジャイアンは眼にもたれかかっていますね。

実際には目の形をした装飾模様がデザインされています。ここにはエジプト神話のホルスの目や、東洋の「邪気を払う護符」的意味も込められているという説があります。

クリムトが眼を神秘的な意味を込めて描いていたのでしょう。

尾形光琳《紅白梅図屏風》

画面がいきなり蛇腹折りに畳まれ、次の瞬間この作品が登場しました。国宝に指定された屏風の作品、《紅白梅図屏風》です。

《紅白梅図屏風》18世紀 江戸時代 MOA美術館

金地の空間に紅白の梅を対置し、中央に水流を意匠化した「たらし込み」技法の模様が描かれています。実際の水ではなく、抽象的でリズミカルな“流れ”が、琳派ならではの様式美として表現されています。

本作は、およそ100年前に描かれた《風神雷神図屏風》を光琳なりに咀嚼して完成した作品と言われています。2つの作品はどちらも二曲一双(2つ折の屏風が一対 ※一対は2枚組のこと)で描かれています。通常、屏風絵というと六曲一双(6つ折の屏風が一対)ですが、この2つの作品は珍しく二曲一双で描かれているのです。

俵屋宗達《風神雷神図屏風》

円山応挙《仔犬図》《紙本淡彩雪松図》

もふもふのワンちゃんが白い地を駆け回るシーンは、円山応挙の名作が2つ組み合わさっています。18世紀、「写生(リアルな観察)」を重んじた画家で、実際に犬を飼って観察していたとされます。応挙の愛情たっぷりの視線が伝わるようですね。

円山応挙の《仔犬図》は、「可愛い」という感情を、日本美術の伝統技法で描き切った、江戸の傑作写生画です。

写生によるリアルさと、絵を見る人への温かいまなざし。その両方が、今もなお多くの人を惹きつけています。

円山応挙《仔犬図》江戸時代

犬たちのうしろには雪化粧をした松の木が描かれていますね。
白絵具を厚く塗るのではなく、墨の濃淡と淡い色彩の重ねで、雪の柔らかさ・冷たさを表現しています。応挙は写生に基づいたリアルな自然描写を重視していましたが、この作品では写実性と同時に、 “空間に漂う空気感”や“見えない寒さ”を描くことにも成功しています。

伝統的な六曲一双で描かれている重要文化財です。

円山応挙《雪松図屏風》

歌川国芳《金魚づくし 酒のざしき》

錦鯉のような色合いの金魚たちが楽しそうにダンスをしています。歌川国芳は特に戯画や擬人化浮世絵で知られた浮世絵師です。この作品、《金魚づくし》シリーズも、まるで金魚が人のように描かれていますね。

歌川国芳《金魚づくし 酒のざしき》

この作品では、人間のように振る舞う金魚たちが酒宴を開いている様子が描かれています。中には酔ってふらふらしている者、話し込んでいる者もいて、表情豊かですね。

国芳は金魚や猫、鳥などを人間の世界に置き換えて描くのが得意で、この《金魚づくし》シリーズもその傑作のひとつです。ヘンテコな人物像は、見たことあるのではないでしょうか?

歌川国芳「みかけはこわいが とんだいいひとだ」

伊藤若冲《雪中錦鶏図》

屏風絵、浮世絵とつづき、次は掛け軸です。
細密な鶏の作品で人気を博した伊藤若冲の名品がドンと出現しました。

伊藤若冲《雪中錦鶏図》

主役の錦鶏鳥は、中国原産の極彩色の美しい鳥。鮮やかな赤、金、黒などを持つ雄が特に絵になる存在ですね。若冲は他ならぬ、この唐物を思わせる身近な動物を描くことで、エキゾチックで精密な描写を実現したのです。若冲の家にはたくさんの鶏がひしめきあっていました。

歌川広重《大橋のあたけの夕立》

浮世絵の有名な作品が登場しました。浮世絵が贅沢禁止令の影響で「美人画」や「役者絵」が描けなくなってしまった時代の「風景画」で大人気になった歌川広重の名品です。

歌川広重《大橋のあたけの夕立》

この浮世絵は、江戸・両国橋の上を人々が急いで渡っているところに、夕立が突然襲いかかるという一瞬の風景をとらえたものです。

  • 手前には橋を渡る人物たち(蓑笠や傘をさす人、急いで走る人)
  • 奥には墨のように濃い雨脚が、斜めに落ちてくる
  • 空も水面も、暗く沈んだトーンで、光と闇のコントラストが劇的

この作品は、“静と動”、“自然と人間”、“広がりと圧迫感”という多くの対比を含んでおり、19世紀日本の最も印象的な風景画の一つと評価されています。

ちなみにこの作品は、海をわたりゴッホも魅了した名作でもあります。ゴッホが浮世絵をそのまま描いた作品も残っています。

葛飾北斎《桜花に富士図》

雨模様が一気に明るくなり、華やかで淡い桜と富士山がとてもすてきですね。

これ、実はあの北斎の作品なんです。

葛飾北斎《桜花に富士図(おうかにふじず)》

この作品は、満開の桜と堂々とそびえる富士山を、1つの画面に収めた非常に珍しい構図で知られています。

北斎といえば《富嶽三十六景》に代表される版画作品が有名ですが、この《桜花に富士図》は一点物の肉筆画であり、非常に希少かつ絵画的完成度の高い作品として注目されています。

葛飾北斎 富嶽三十六景《神奈川沖浪裏》

次に登場したのは「THE 北斎」の名品ですね。
あまりの大波にドラえもんもたじたじです。

葛飾北斎《神奈川沖浪裏》1830年(天保元年)から1834年(天保5年)ごろ

富嶽三十六景は、その名の通り、「富士山を描いた36枚のシリーズ浮世絵作品」です。英語でもBig Waveとして親しまれているため、波に目が行きがちですが、シリーズとしてのメインテーマは富士山なんですね。

ちなみに36といいながら人気すぎて10枚追加され北斎の「富嶽三十六景」は46景存在しています。

《北斎漫画》など様々な浮世絵が集まったシーン

このシーン、本当に多くが描かれています。ここでどんどん名画が畳み掛けるように押し寄せてきて、アートヲタクとしてはテンションがあがるシーンですね。

葛飾北斎《北斎漫画》
葛飾北斎《北斎漫画》

みんなが変顔している箇所は《北斎漫画》のオマージュ。
《北斎漫画》は、北斎が描いた人物・動物・風景・道具・化け物などあらゆるモチーフを集めた絵手本であり、いわば江戸時代のビジュアル百科事典のような存在です。

喜多川歌麿《婦女人相十品・ポッピンを吹く女》
《ポッピンを吹く女》喜多川歌麿

ロゴで隠れていますが(映画では隠れていなかったはず)、左上のスネ夫は《ポッピンを吹く女》の姿をしています。

ポッピン(ビードロとも言う)は彼女が手にしている黄色いおもちゃです。吹きガラスでできたおもちゃで、息を吹くとポンと破裂音が鳴りました。江戸時代以降、日本で女性や子どもの遊具として人気でした。

菱川師宣《見返り美人図》
菱川師宣《見返り美人図》

しずかちゃんは国宝《見返り美人図》に変身していますね。浮世絵が木版画で量産することが主流になる前、肉筆画(一点もの)の作品です。ちなみに見返り美人は本当に美人なのかを、身を持って検証したこともありました笑

歌川国芳《たとゑ尽の内 人にたとえたる猫の姿》

戯画で知られた国芳は、猫が人間のポーズをとった絵も多く残しています。正直、のび太くんがどの作品からオマージュされたのか、確実に特定できた自信はないのですが。

この作品《たとゑ尽の内 人にたとえたる猫の姿》の左下の猫が最も近いのではないかと思っています。

東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛 》
東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛 》

わずか10ヶ月しか活動履歴がのこっていない伝説の浮世絵師、写楽の名作はジャイアン担当。


この作品は、歌舞伎役者「三代目大谷鬼次」が『恋女房染分手綱』という演目の中で演じた盗賊「江戸兵衛」の一瞬の“見得(みえ)”のポーズを描いたもので、写楽の中でも最も有名な一点です。江戸兵衛が腕を突き出し、指を大きく広げたポーズは当時斬新に写ったことでしょう。「大首絵」と呼ばれるバストアップは、写楽があみだした大きな特徴です。

さらにこの奇抜で大胆なデフォルメ。これは世界中で愛される点であり、写楽が短命に終わってしまった要因とも言われています。

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》

日本画ゾーンは一旦おやすみ?西洋のお食事タイムです。

とても食欲をそそる色はしていませんが、元の絵はパンプディングを作るための牛乳を用意する女性像を描いた作品でした。

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女(Het Melkmeisje)》

この作品は、オランダ・デルフトの家庭的な室内を舞台に、無名の台所女中が牛乳を注いでいる日常の一瞬を描いたものです。動きの少ない静かな情景から、“集中する心”が伝わってきますね。

菱田春草《黒き猫》

木の上でくつろぐ黒猫のアップから始まり、突然下から白い花束が登場します。
画角が広がり、ドラえもんが求愛していました。この猫は近代日本画家である菱田春草の名作が元となっています。

菱田春草《黒き猫》1910年

この作品は、春草が探求していた「朦朧体(もうろうたい)」と呼ばれる画法の到達点のひとつです。朦朧体とは、輪郭線を極力使わず、色彩や濃淡だけで対象を浮かび上がらせるという技法で、新しい日本画のかたちを模索するなかで生まれました。

《黒き猫》は、日本画でここまで現代的なミニマリズムと可愛らしさを両立した作品はほかにないとも言えるほど、洗練された一枚です。

クロード・モネ《日傘をさす女》

しずかちゃんが美しい白のドレスを着て、男性陣は麦わら帽子をかぶっています。
これはモネの作品のオマージュです。日傘をさすのはモネの最初の奥さん。とても愛したカミーユです。そして麦わら帽子の少年は長男ジャンでした。

クロード・モネ《散歩、日傘をさす女》1875年


この作品でモネが最も重視したのは、形の正確さよりも、風の流れや光のまばゆさといった、目に見えてもすぐに消えてしまう一瞬の空気感です。女性の顔はやや影に隠れ、ディテールははっきりしていませんが、それがかえって風景との一体感を生み出しています。絵全体が一つの光の粒子でできているかのようで、これこそが印象派の真骨頂だと言えるでしょう。

レオナルド・ダ・ビンチ《モナリザ》

レオナルド・ダ・ビンチ「モナリザ」1519ルーブル美術館所蔵

美術館に並ぶ名画のなかでも、これほどまでに多くの人を惹きつけ、語られ、模倣されてきた作品は他にないかもしれません。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた《モナ・リザ》は、単なる肖像画にとどまらない、芸術史上でも特別な位置を占める作品です。
1503年頃にフィレンツェで制作が始まったこの絵は、レオナルドが得意とした「スフマート(ぼかし技法)」が最大限に活かされています。輪郭がはっきり描かれず、光と影がやわらかく溶け合うことで、肌はあたかも呼吸しているかのよう。背景の幻想的な風景との一体感が、人物に深みと空気感を与えています。

ドラえもんがポップなモナリザの姿で登場しましたね。ダビンチが生涯(?)手を加え続けたといわれた逸品です。しかし近年では、亡くなる前年には既に手放していたことがわかっているようですね。詳しくはyoutubeで紹介しています。

ピエト・モンドリアン《コンポジション》

コンポジション2 赤、青、黄 1930年

ピエト・モンドリアンのコンポジションシリーズを彷彿とさせるアニメーションが登場しました。ドラえもんがモナリザで登場したり、ジャイアンがブロックの中で歌っていたり…。とてもポップな印象で登場しましたね。コンポジションは、私もお気に入りの作品の一つです。

西洋美術では、抽象絵画のパイオニアとして位置づけられる芸術家の1人で、「デ・ステイル」という芸術雑誌を創刊しています。デ・ステイルの考え方は、後のバウハウスの造形美にもつながるので彼の考えは新しい時代を切り開いたとも言えるでしょう。モンドリアンはそれらの活動の中で「新造形主義(ネオ・プラスティシズム)」という美術理論を提唱しました。

加山又造《千羽鶴》

加山又造《千羽鶴》

時代が一気に現代に近づいた作品でしたね。

加山又造は、昭和初期の京都で生まれた日本画家です。「現代の琳派」とも呼ばれるにふさわしく、伝統的な美しさと新しさを融合させた作品ですね。
《千羽鶴》では、琳派を思わせるグラフィカルでリズム感のある装飾と、たらしこみ技法で描かれた夜の姿が美しく融合しています。
ドラえもんのOPでは下弦の月でしたね。

どらえもん《漫画》

最後は漫画のコマで終わった映像でした。1969年から連載がはじまり、いまもなお根強い人気があります。

今回の映画《絵世界物語》の本編には、西洋絵画や日本の伝統絵画がふんだんに扱われるというわけではあなく、創作物語が中心でした。しかし絵の具の顔料にかんする箇所やテンペラ技法など細かいところは、美術ファンもワクワクする内容だったと思います。

こんかいまとめた名画を、改めて劇場でさがしてみてください。

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