アトラスとは?ギリシャ神話の天空を支える巨人と地図帳の由来

ギリシャ神話大全

世界を支える者——アトラス。

ギリシャ神話のなかで、彼ほど重い運命を背負った存在は多くありません。天空をその肩に担ぎ、絶えず世界を支え続ける巨人。彼の名はやがて地図帳(アトラス)や天球儀の象徴となり、現代にまで受け継がれています。

なぜアトラスは天空を支える罰を受けたのか?英雄ヘラクレスやペルセウスとの意外なつながりとは?このページでは、そんなアトラスの神話と、後世に与えた影響について、わかりやすく紹介していきます。

アトラスとは?

アトラスは、ギリシャ神話に登場するティタン神族の一柱です。天空をその肩に担ぎ、永遠に支え続ける役目を負った存在として広く知られています。

アトラスは、原初の神々の流れをくむティタン族に属し、神々の世代交代をめぐる大戦争「ティタノマキア」では古い神々の側について戦いました。しかし敗北したことで、ゼウスによって厳しい罰を科され、世界の果てで天空を支えるという孤独で過酷な運命を背負うことになります。

彼の名前は、やがて「地図帳(アトラス)」や「天球儀」の象徴としても受け継がれ、単なる神話上の存在を超えて、文化や芸術のなかに深く刻まれていきました。ギリシャ神話でいうとゼウスやアフロディーテなど「オリンポス十二神」が有名な神様ですが、アトラスはゼウスの叔父にあたる巨大な神「ティタン族」です。

アトラスの家系図__ティタン十二神の子供
ティタン十二神

神々の物語は、混沌(カオス)から生まれた大地の女神ガイア天空神ウラノスから始まります。この2柱の神は結ばれ、数多くの子どもたちを生み出しました。彼らから最初に生まれた神たちをティタン十二神と言います。アトラスは、そんなティタン十二神から生まれました。こうして家系図を整理するとゼウスと従兄弟の関係にも思えますが、アトラスも巨大な神様である「ティタン族」です。

アトラスは、ウラノスとガイアから始まる壮大な系譜の「孫」にあたる存在です。その家系は、「秩序・運命・限界・知恵」といった人間的なテーマを多く含み、後のギリシャ神話の展開(ティタノマキア、人類創造、パンドラの箱など)に深く関わっていきます。つまり、アトラスはただ天空を支えるだけの存在ではなく、古代世界の秩序と、その変化の象徴でもあるのです。

この辺の登場人物もとても多いので、今後少しづつ、内容を更新していきますね。

アトラスの親や兄弟に当たる神たち

アトラスの物語__なぜ天界の神なのか?

全宇宙を破壊した大戦__その代償として
コルネリス・ファン・ハールレム『打ち負かされるティーターン』 (1588)

物語の中で、アトラスが大きな役割を果たすのは「ティタノマキア」、すなわちティタン神族とオリュンポスの新たな神々との間で繰り広げられた壮絶な戦いにおいてです。アトラスはティタン側につき、ゼウス率いるオリュンポス神族に抵抗しました。しかし、戦いはゼウスたちの勝利に終わり、敗北したティタンたちは厳しい罰を受けることになります。

アトラスに課せられたのは、天空を肩で支え続けるという過酷な運命でした。彼は世界の果て、しばしば「ヘスペリデスの園」の近くとされる西方の地に立ち、永遠に重たい空のドームを支え続けなければならなかったのです。この罰は、アトラスが単なる敗北者ではなく、宇宙の秩序そのものを保つために必要な存在として位置づけられたことを意味します。

ジョン・シンガー・サージェント『アトラスとヘスペリデス』(1922年と1925年の間) ボストン美術館所蔵

「ヘスペリデスの園」はこのブログで初登場なので少し補足しておきましょう。
ジョン・シンガー・サージェントの作品には、アトラスの他に、様々な女神が登場します。女神たちはリラックスした状態で、思い思いに暮らしているのがわかりますよね。彼女たちがヘスペリデス(単数形はヘスペリス)であり、この場所が「ヘスペリデスの園」です。

ヘスペリスは、女神は女神でも、下級女神(ニンフ)に分類されます。彼女たちは世界の西の果てにある園に澄んでおり、果樹園に植えられた金のリンゴのお世話をしています。アトラスは、そんなニンフの安息の地で、天を支える役割を担っているのです。

大戦の末__建築の屋根を支えるアトラス像

美術史において、アトラスは単なる神話上の存在にとどまりません。彼は建築装飾の世界にも姿を変え、アトラン(Atlantes)と呼ばれる柱彫刻として登場します。

アトランとは、筋肉質な男性像をかたどった柱のことで、建物の上部を支える役割を果たす装飾要素です。この造形は、天空を支えるというアトラスの神話と深くリンクしており、ただの装飾ではなく、「支える」という行為そのものを象徴的に表現しているのです。隆々とした筋肉、しなやかながら力強い姿勢。これらは建築物の重量を直感的に感じさせ、構造の安定性を視覚的に保証する役割をも果たしています。

また、アトランは、通常の円柱とは異なり、人間の力そのものを構造の一部に見立てるという、古代からの美意識と哲学を色濃く反映しています。こうしたアトラス=アトランの表現は、古代ギリシャ・ローマ建築からバロック時代、さらには近代の装飾建築に至るまで、長きにわたって受け継がれてきました。

アトラスの物語__金のリンゴとの関係

さきの大戦で、金のリンゴを育てる「ヘスペリデスの園」で天球を抱えています。そのため少しだけ、金のリンゴエピソードにも登場してくるのです。金のリンゴ(黄金のリンゴ)は不老不死をもたらすとされ、神々すら欲しがる代物でした。

ヘラクレスとの駆け引き__天球をもたないアトラス?

原初の神やティタン族たちの物語がおわり、時代はぐっとおりて英雄(神と人間の血を引く者)時代。ヘラクレスが「十二の功業」という超難問に挑んだときの物語です。11番目の試練が以下のような内容でした。

ヘスペリデスの黄金のリンゴを手に入れろ

ヘラクレスは、園の場所もわからず途方に暮れました。さらにヘスペリデスの園についた所で、そこにはヘスペリスたちやドラゴンがリンゴを守っているのです。一筋縄ではいきません。そこで園の近くにいたアトラスに会いに行ったのです。

ヘラクレス
ヘラクレス

アトラスさん、実は斯々然々で、ヘスペリデスの園にいってリンゴを取ってきてくれませんか?

アトラス
アトラス

いや、私はここで天空を支えている必要がある。確かに私なら、娘たちやドラゴンを上手く出し抜くことができるかもしれない。でも君の力にはなれそうにないんだ。

ヘラクレス
ヘラクレス

それなら俺が天空を支えておきましょう!なに私は力には自身がありますので少しくらい大丈夫です!

この提案に、アトラスは喜んでのりました。なにしろ天空から一時的にも開放されるのですから。さらに上手く行けはこのまま…。なんてことも思っていたかもしれませんね。ここでヘラクレスの恐ろしい腕力のシーンも加わり、物語の盛り上がりをみせるのです。なにせティタン族が支えていた天空を、まさか人間とのハーフが支えるなんて!

左からアテナ、ヘラクレス、アトラス

こうしてアトラスはリンゴを持ちヘラクレスの元へ向かいます。しかしアトラスはせっかく天球の罰から逃れたのです。このままヘラクレスに支えてもらおうとしたのでした。

アトラス
アトラス

よーし!持ってきたぞ!このまま俺がリンゴを届けに行ってやるよ。お前はもう少しここで天空を支えていろ

アトラスはこのまま罰を代わってもらおうと図りました。しかしヘラクレスはこのように返したのです。

ヘラクレス
ヘラクレス

わかりました!しかしもう少し楽な姿勢に持ち替えたいんです。ちょっとだけ天空を持ってもらえますか?

アトラスが再び肩に担いだが最後、ヘラクレスはそのままリンゴを持ってその場を去ってしまったのです。、、アトラスのあほ!

このように、アトラスは後の物語にも少なからず登場するのでした。

アトラスの物語__石にされた巨人

メドゥーサの首を切り落としたペルセウス。アントニオ・カノーヴァ作『メドゥーサの頭を持つペルセウス』(1800年頃) バチカン美術館所蔵

これは異説ですが、英雄ペルセウスの物語にもアトラスが関わっています。ペルセウスといえば、メデューサの首を切り落とした物語が有名ですよね。この時の関連で、アトラスが登場するシーンがあるのです。

メドゥーサを討ち取った後、勝利の帰途についていたペルセウスは、旅の途中でアトラス近くをたまたま通りかかりました。アトラスは相変わらず天球を支えています。そこへやってきた見知らぬ英雄を警戒し、こう言いました。

アトラス
アトラス

誰だお前は!これ以上この地に近づくな!

トラウマでしょうか笑 それとも自らの使命を全うするためでしょうか。ペルセウスを追い払おうとします。ヘラクレスの話との時系列は不明ですが、一応この前に「ゼウスの子供が金のリンゴを奪うだろう」という信託を受けていたようです。(いやゼウスの子供いっぱいいるのですが)この時のアトラスはその信託を恐れていたようですね。

いきなり断られたペルセウスはブチ切れ、持っていたメデューサの首を出して見せたのです。そこでアトラスはあっという間に石にされてしまいました。うん!かわいそ!

エドワード・バーン=ジョーンズ『ペルセウス シリーズ:石に変わるアトラス』(1878年) サザンプトン市立美術館

おわりに

後半はだいぶおちょこちょいなアトラスをお届けしましたが。
アトラスは、ギリシャ神話の中で単なる巨人以上の存在です。天空を支えるという果てしない罰、英雄たちとのすれ違い、そしてついには大地そのものへと姿を変えた彼の物語は、神々と人間の間に流れる運命の重みを静かに語りかけてきます。重荷を背負い続けるアトラスの姿は、建築の柱となり、星座となり、山脈となって、今も私たちの世界に形を変えて生きています。神話は終わりません。重さを引き受けながら、なお天を支え続けるアトラスのように、人もまた、自らの世界を支えながら歩み続けているのかもしれませんね。

天空を司る神。名前は「支える者」「耐える者」「歯向かう者」を意味する古印欧語に由来する。
ギリシャ名:アトラス(Atlas)
ローマ名:アトラス(Atlas)

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