「アートとデザインの違いは?」と聞かれたとき、皆さんはどう答えますか?なんとなく「アートは絵を描いて展示するもので、デザインはポスターや広告を作るもの」といったイメージを持っているかもしれません。
しかし、その違いを明確に説明しようとすると、意外と難しいですよね。
実は、アートとデザインが明確に分かれたのは 歴史的にある時期 からなのです。つまり、それ以前の画家たちは、現代の「アート」とも「デザイン」とも異なる立場にいました。
この記事では、アートとデザインの本質的な違いを、歴史的な背景とともに解説 していきます。
アートとデザインの本質的な違いとは?
デザインとは? ー 相手がいて成立する仕事
デザインとは、一言でいうと 「使うもの」 です。そして、デザインが成立するためには 「相手」が必要です。
デザインは、誰かのために何かを提供する行為。たとえば、ポスターやロゴ、広告など、視覚的な要素を通じてメッセージを伝えたり、機能性を向上させたりするのがデザインの役割です。
この「相手がいる」という考え方は、デザイナーに限らず多くの仕事に共通しています。社会の中でルールに基づいて働き、その対価として収入を得る。デザインもまた、こうした 社会の仕組みの中にある職業 なのです。
デザインの定義:ブルーノ・ムナーリの言葉
20世紀の美術教育家 ブルーノ・ムナーリ は、デザイナーを「美的センスを持つプランナー」 と表現しました。つまり、デザイナーとは 「美的感覚を持った設計者・企画者」 ということ。デザインは単に見た目を整えるだけではなく、計画を立て、目的に応じた形を作り出す仕事なのです。
アートとは? ー 自己実現のための表現
一方、アートは 「使わないもの」 の表現です。デザインとは異なり、「相手」のために練ったプランニングとは異なります。時に自発的に湧き上がったものと向き合い、また時に社会との関係から生まれる表現がアートです。岡本太郎の「座ることを拒絶する椅子」はアートとデザインの本質を理解する上でとても良い作品ではないでしょうか。

川崎市岡本太郎美術館岡本太郎美術館(引用元)
座る機能として優れているかどうかの、プロダクトとしての椅子とは全く違う考えの下で成り立っています。生活の黒子となり人々をより快適にするデザインの役割であるはずの椅子から機能を外し、社会にエネルギッシュに問いかけてきます。使わないことで向き合える椅子の本質。それらに触れることができるでしょう。一見するとその日の生活には必要ないかもしれませんが、人生とか社会とか、時代といった、大きなサイクルで生きていく時に向き合える分野だと思います。
アートとデザインが分かれたのはいつ?
分裂のきっかけは「産業革命」
では、アートとデザインが分かれたのは いつ なのでしょうか?実は、この分裂が起こったのは 19世紀から20世紀 にかけての時期です。その大きなきっかけとなったのが 「産業革命」 でした。
18世紀以前:画家の仕事とは?
18世紀以前、画家は 貴族や王族、教会からの依頼 を受けて作品を制作していました。彼らは パトロン(支援者)の庇護 を受けながら、絵を描き、その報酬で生活していたのです。
19世紀以降:産業革命と社会の変化
しかし、19世紀に入ると、産業革命によって 社会の構造が大きく変わりました。工場による 大量生産 が始まり、これまでの「パトロンに依存する」働き方では 生計を立てることが難しくなった のです。そこで、一部の画家たちは 貴族ではなく企業からの依頼を受ける ようになりました。
ポスターや広告、パッケージデザインなど、商業的なビジュアル制作を手がける仕事が増え、それが 現在の「デザイナー」の始まり となったのです。
アートとデザインの分裂
この時代、社会の変化に適応し 「新たな仕事」として成立したのがデザイン でした。一方で、この変化に 反発 した画家たちもいました。
彼らは、「貴族や王族のために描くのではなく、自分自身の価値観を表現しよう」と考え、従来の価値観を否定し、新しい表現を模索 しました。のちに近代美術が開花し、現代アートへの文脈へと続いていきました。
おわりに
「アートとデザインの違い」は、単なる作風の違いではなく、歴史的な変化 によって生まれたものです。
この視点を持つことで、アートもデザインも、より深く楽しめるのではないでしょうか?美術館で作品を見るときや、デザインを意識する場面で、
ぜひこの歴史の背景を思い出してみてください。