ミダス王とは?黄金の手とロバの耳を美術作品から読み解く

黄金になったパンと人の手。ミダス王、黄金なのに食べられない?

触れたものが黄金になる。それなら、暮らしの心配はなくなるだろうか。ミダス王の神話は、食卓のパンまで黄金になった瞬間に、その願いをひっくり返す。

けれども美術に描かれた王は、金塊を抱えているとは限らない。水辺で小さく身をかがめたり、ロバの耳を生やしたりもする。プッサン、クレイン、ヨルダーンスの作品から、王が何を望み、何を失ったのかを見ていこう。

この記事はAIが執筆しています。

この記事でわかること
・黄金の力を得たミダスが、食事もできなくなる理由
・プッサンの絵に隠れた、物語の始まりと終わり
・娘の黄金化とロバの耳を、出典を分けて読み解く方法

ミダスはどんな王?神々との関係

ミダスは、ギリシャ・ローマの神話に登場するフリギアの王。老人シレノスをもてなし、酒神ディオニュソスのもとへ返したことから、黄金の力を授かる。ディオニュソスはバッカスの名でも呼ばれる。

もう一つの話では、音楽の判定をめぐってアポロンにロバの耳へ変えられる。神々と人間の立場を整理したいときは、ギリシャ神話大全も手がかりになる。

ミダスはシレノスをもてなし、ディオニュソスから黄金の力を得る。別の話ではアポロンにロバの耳へ変えられる。
ミダスの相関図(イラスト:当ブログ制作)

黄金の手は、なぜ王を飢えさせたのか

オウィディウス『変身物語』第11巻では、ミダスはシレノスを10昼夜もてなし、11日目にバッカスへ返す。育ての親が戻ったことを喜んだ神は、王に褒美を選ばせた。

王が願ったのは、触れたものが黄金になる力。枝も石も金に変わり、最初は大喜びする。ところがパンをつかむと、それも硬い金になる。肉も酒も口にできない。財宝は増えても、空腹と渇きは満たされないのだ。『変身物語』第11巻85〜126行

プッサン《ミダスとバッカス》には、二つの時間がある

プッサン《ミダスとバッカス》。前景で願いを述べる王と、右奥の水辺の場面。
ニコラ・プッサン《ミダスとバッカス》、1624年頃、アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)。Wikimedia Commons / Web Gallery of Art、Public Domain。 画像出典

《ミダスとバッカス》(1624年頃)で、片膝をつき、胸へ手を当てているのがミダス。その左に立つバッカスへ、願いを述べる場面だ。赤と青の衣をまとう王の身振りが、二人のやり取りへ目を導く。

では、右奥の水辺は何を表しているのだろう。所蔵館の解説によると、ここには王が川で身を洗う、物語の結末が描かれている。一枚の絵の中に、願いをかなえてもらう王と、その力を手放す王がいる。アルテ・ピナコテークの作品解説

川辺で小さく描かれたのは、誰?

飢えに苦しむミダスが助けを求めると、バッカスはパクトロス川の源で身を洗うよう命じる。王が従うと黄金の力が川へ移った、と『変身物語』は語る。これは川の金を説明する神話の筋で、自然現象の科学的な説明ではない。

大きく横たわる河神の背後、左側で水に身をかがめるミダス。
ニコラ・プッサン《パクトロス川の源で身を洗うミダス》、1627年頃、メトロポリタン美術館(71.56)。The Metropolitan Museum of Art, Purchase, 1871、CC0 / Public Domain。 画像出典

大きな身体が、物語の主役とは限らない

プッサンの《パクトロス川の源で身を洗うミダス》(1627年頃)では、画面を占める大きな男性に目を奪われる。しかし、横たわって背を向けているのは河神。ミダスはその背後、左側で水に身をかがめる小さな人物だ。

右下には壺を持つ二人の幼児もいる。王の豪華な食卓も、積み上がった金塊もない。暗い木陰で、ミダスは水へ身体を近づけている。人物の大きさと主役の重要さが一致しないところに、この絵を見る面白さがある。メトロポリタン美術館の作品台帳・解説

黄金になった娘は、後世の再話から

ミダスが娘に触れて、金の像にしてしまう話を覚えている人もいるだろう。この場面はオウィディウスの該当章にはない。ナサニエル・ホーソーンの『ワンダー・ブック』(1851年)所収「黄金の手」では、娘メアリゴールド(Marygold)が登場する。

クレインの挿絵。ミダスが金色になった娘を抱きかかえている。
ウォルター・クレイン《黄金に変わったミダスの娘》、1893年刊行版、米国議会図書館所蔵本の画像。Library of Congress / Wikimedia Commons、Public Domain。 画像出典

ホーソーンの再話では、王が娘に口づけすると、彼女は金の像へ変わる。ウォルター・クレインによる1893年刊行版の挿絵は、父が金色の娘を抱きかかえる場面を示す。肩と頭を支える手が、娘を失いかけた父の驚きを感じさせる。物語ではその後、水によって娘を元に戻す。ホーソーン本文とクレイン挿絵

古代の物語と、後世の再話を分ける

娘の場面を加えた再話では、失うものが食事だけでなく、愛する家族へ広がる。どの本の物語を描いているかを確かめると、同じミダスでも作品の焦点が変わる。

ロバの耳は、音楽の判定から生まれた

『変身物語』には、黄金の話に続いて別の失敗が語られる。パンと音楽の神アポロンが腕前を競い、山の神トモロスがアポロンを勝者とする。ミダスは判定に反対し、アポロンに耳をロバの形へ変えられてしまう。

ヨルダーンスが描いた、勝者と不満を残す王

竪琴を持つアポロンと、右端でロバの耳を生やしたミダス。
ヤーコプ・ヨルダーンス《パンに勝利するアポロン》、1636〜1638年、プラド美術館(P001551)。Wikimedia Commons、Public Domain。 画像出典

《パンに勝利するアポロン》(1636〜1638年)では、左のアポロンが竪琴を持ち、中央のトモロスが冠を掲げる。その右には笛を持つパン、さらに右端にミダスがいる。金色の衣よりも、頭から伸びる長い耳に注目したい。

同じ画面にいても、四人の立場は違う。楽器、冠、耳という小さな印を追うと、勝者、審判、敗者、判定に異議を唱えた王を読み分けられる。プラド美術館の神話解説、21頁

隠した耳を、葦が語りだす

王は耳を隠すが、髪を切る者に知られてしまう。秘密を抱えきれなくなった彼は、地面の穴へささやき、土を戻した。やがてそこに生えた葦が、風に揺れて秘密を伝える。王の耳の話も、オウィディウスにたどれる。第11巻146〜193行

ミダスの絵を見るときは

何が黄金になったかだけでなく、王が画面のどこにいるかを探してみたい。願う王、洗う王、娘を支える王。同じ人物でも、選ばれた場面によって、私たちが受け取る問いは変わる。

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