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05/絵画革命-印象派

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太陽の下で色を観察し直した印象派

今回の授業では、19世紀の美術を大きく変えた印象派がアートにもたらした革新を、「色の変化」「タッチの変化」、そしてモネの「連作」という3つのポイントから解説していきます。

この革新の根本には太陽の下で色を観察し直したから」という、実にシンプルで劇的な発見に帰結します。この発見が、絵画の主題から制作スタイル、そして色に対する概念まで、すべてを塗り替えることになったのです。

太陽の下で描けなかった時代
アドリアーン・ファン・オスターデ – 画家のアトリエにて

かつての絵画制作は工房を構え、徒弟のような仕組みで進められており、絵を描くアトリエは暗いのが一般的でした。

当時、弟子は顔料(色のもと)を乳鉢(マーラ)で砕き、油と混ぜてその場で絵の具を作っていました。そのため、絵の具は持ち運びを想定されていなかったわけです。また、18世紀以前の芸術家は電球も蛍光灯もない時代ですから、当然、絵を描く光源はろうそくや窓から差し込む陽の光でした。この限られた光の下で描かれた絵は、色が判別しにくく、全体的に黒っぽく潰れた印象になりがちでした。コントラストを強調するため、影の部分をより黒く描くのが主流となっていたのです。

マーラー
持ち運べる絵の具の発明
ウィンザー&ニュートンより

この暗い環境を変えたのが、技術の進歩です。絵の具を豚の膀胱に入れたものが、モネが生まれた頃にはシリンダー型を経て、翌年には現在のチューブタイプが開発されます。これにより、画家はアトリエ以外の場所、すなわち屋外(戸外)で絵を描くことが可能になりました。このチューブ絵の具の開発に伴って屋外で絵を描くことが可能になった、印象派の画家たちに好まれた制作スタイルこそ戸外制作(とがいせいさく)です。

戸外制作

チューブ絵の具の開発に伴い、屋外で絵を描けるようになった。印象派の画家たちは戸外制作を好む者も多かった

太陽光がもたらした明るさ

太陽光の下(晴天)は、ろうそくの下に比べて圧倒的に明るく、今まで黒く潰れていた色もはっきりと判別できるようになりました。

アトリエ(屋内)で描く作品は暗い部分が潰れてしまう

印象派の画家たちは、その明るさを最大限に表現するため、「画面をより明るくするにはどうすればいいか」を研究しました。バロック時代がコントラストを高めるために「より黒く」していたのに対し、彼らは「より明るく」することに奮闘したのです。また、19世紀には化学顔料も開発され、より鮮やかな絵の具が使えるようになったことも、明るい表現を後押ししました。

屋外で描いた作品には暗い色が潰れることなく再現されている

タッチの変化:一瞬の光を描写した筆触分割

色を明るく表現する上で、モネ(クロード・モネ)を中心に印象派の画家たちが生み出したのが、タッチの変化です。

光の描写を試みたモネ

モネは、印象派展の創設者の一人であり、その作品名の『印象、日の出』が「印象派」という名前の由来にもなりました。彼の作品の大きな特徴は、画面に光を描写しようと試みたことです。

過去の絵画は、絵の具をパレットで一旦混ぜてイメージ通りの色にしてからキャンバスに塗り、タッチも残さない滑らかな表現が良しとされていました。しかし、戸外で太陽の下を観察すると、光の移ろいや木々の揺らぎが早く、「今ある一瞬の絵」をどうしても載せたいという衝動に駆られます。そのため、彼らはパレットで時間をかけて混ぜることを避け、色をほとんど混ぜずにチューブからそのまま載せたり、隣り合わせに配置したりしました。この瞬間、瞬間の色を載せていく手法が、結果的に荒いタッチとして画面に残ることになりました。

筆触分割

印象主義の画家たちが用いた画法。隣接する色が鑑賞時に擬似的に混ざり、1つの色に表現される

モネとルノワールの比較:着眼点の違い

印象派を代表するもう一人の画家が、ルノワールです。両者は同じ場所で絵を描いても、どこに感動し、どこに力を入れて描くかという着眼点が大きく異なっていました。ルノワールが描く女性や少女は可愛らしいイメージがあるのに対し、モネは風景画のイメージが強いのはこのためです。

左がルノワール作、右がモネ作

連作:時間軸の光の観察

モネ《積み藁》連作

モネは「一瞬の光」を捉えるタッチの変化に加え、連作という手法で「より長い時間軸の光の観察」を試みました。この連作の目的は、瞬間瞬間の光では追求しきれなかった、時間とともに移ろう光を追求するためです。彼はほぼ同じ場所、ほぼ同じ位置から、時間や季節が違う様子を何枚も描写しました。

その効果は、現在でいうタイムラプスのように、時の流れによって作品の色調や雰囲気がどう変わるかを表現することでした。モネ自身は、この連作を一つの部屋の壁一面に飾りたかったと言われています。

新印象派への進化:スーラと点描画法

印象派の活動をもとに、さらに筆触分割を進めたのが新印象派です。代表的なのがスーラです。彼が開発した技法は点描画法ですが、その目的はモネたちが目指した「瞬間の光」ではなく、「より色を鮮やかにするため」でした

絵の具は減法混色であるため、スーラは絵の具を混ぜず、チューブから出したままの色を無数ので画面上に配置することで、彩度(色の鮮やかさ)を保ったまま光の表現を試みたのです。

点描画法

筆触分割をさらにおし進め、光学的理論を取り入れた画法。絵の具を混ぜないことで彩度を保ち、より明るい色の再現を試みる

赤紫、緑、黄色の3色を基準にしたような作品が多くみられる

この点描画法は、その後ゴッホやマティスなど後続の多くの芸術家に影響を与えました。また、点や色の重ね合わせで色を表現するこの手法は、現代のディスプレイや印刷物の三原色(RGBやCMY)による発色の仕組みの原型とも言える、視覚表現の考え方でした。

まとめ

印象派から新印象派へと至るこの芸術運動は、単なる画風の変化ではなく、「光と色」に対する視点の革命でした。

これらの変化は、写真技術の普及といった時代背景も相まって、それまでのアカデミックな規範や「写実」の概念を打ち破るものでした。

印象派科学的観察技術的進歩(チューブ絵の具)によって「感覚的・瞬間的な光」の表現を切り開き、さらに新印象派光学的理論を取り入れることで「色彩の鮮やかさ」を追求した結果、現代アートへと繋がる多様な表現の基礎が築かれたと言えます。

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