「美術のルール」を知ることから始まる良いデザイン
デザインの授業でなぜ「美術のルール」?と思われるかもしれませんが、いいデザインというのは7割の普遍性を知るところから始まります。文化史で培われた普遍性(≒ルール)をまずは土壌としてもち、そこからようやく新しいデザイン制作に取り組むことが出来ます。本授業では、そのような普遍性がどのように生まれ受け継がれてきたのか、またその重要性にフォーカスしています。

以前学生に取ったアンケート結果です。「どんな所に良いデザインを感じますか?」という質問に対し、多くの学生は独自性に着目していました。これは他と逸脱する特異性により目が行きやすいことを示唆しているのではないでしょうか。
さらに学生の反応から、独自性というのは自分のアイデンティティと密接に関連しているようにも感じ取れ、いかに自分らしく作るか、いかに自分にしか作れないデザインを生むかに目がいっているようでした
しかし実際には購買意欲につながる独自性の割合は低い

前期にお伝えしたように、良いデザインというのは必ずしも新規性をもとめているものばかりではありません。全く新しいものはそもそも使い方もわからず浸透しません。かといって普遍性ばかりを追い求めてもパットしないものになるかもしれませんが、今回はより学生の意識から遠い、普遍性についてより言及するような内容でまとめました。
なぜアート(文化史)にルールのようなものがうまれたのか

アートの世界でルールが存在する主な理由は、誰が書いても、何を書いているのかが分かるようにするためです。
桃太郎の例をだしました。日本一ののぼり、犬猿雉、きびだんご、はちまき…。どんな時代でも、誰が書いても桃太郎とわかるようにわかりやすいマークを使うことが効果的です。これと同じように、西洋美術では誰が書いてもなにかわかるための目印が多用されています。
アトリビュート(attribute)

アトリビュートは特定の持ち物や象徴を指すものです。聖母マリアなら白百合、赤と青の服、イエス(幼児の姿であることが多い)。これら文化史がうんだルールにより、誰がどの時代に描いても聖母マリアとわかるのです。
数百年経った昔の作品であっても、アトリビュート見れば解読することができるでしょう
寓意(allegory)

特定のものや表現が抽象的な意味や概念をほのめかしているものをアレゴリー(寓意)と呼びます。アレゴリーは文化によって変化する場合もありますが、例えばキューピットが描かれれば愛を意味していたり、骸骨には死(メメント・モリ=如何なる時も死を忘れるな)の意味が込められています。
大きなルールを知ることの重要性
これらのルール(共通認識)があったからこそ、それを意図的に逸脱した作品が、人々に驚きを与え、歴史の分岐点となり得たのです。
これは、日本人だけの、現代の私たちだけの価値観にとらわれず、広い時代、広い世界から物事を捉えるための土台作りです。前回の授業で体験したように、国や文化、時代が変わると、考え方や価値観は大きく変わります。普遍的な共通認識、つまり「みんなが共通しているルール」を理解することが、そこから「脱線」した独自性(個性)を生み出し、人々を魅了するデザインにつながるのです。
