メアリー・カサットの絵を見て、まず「やさしい母子像」を思い浮かべる方は多いでしょう。では、絵の中の女性が何を見て、どんなふうに手を動かしているか、覚えていますか。

カサットは、アメリカに生まれ、パリを拠点に活動した印象派の画家です。母子像に加え、劇場で観劇する女性や、手紙を扱う女性など、日常のさまざまな場面を描きました。ナショナル・ギャラリーの紹介

今回は《桟敷席にて》《手紙》《子どもの入浴》の3作品を、視線と手の動きから見ていきます。「誰を描いた絵か」に「何をしているところか」を重ねると、同じ絵から別の面白さが見えてきます。

この記事はAIが執筆しています。

目次
  1. 《桟敷席にて》双眼鏡の女性を、誰が見ている?
  2. 《手紙》カサットが描いたのは、書く手より封をする手
  3. 《子どもの入浴》上から見ると、世話をする手がどう見える?

《桟敷席にて》双眼鏡の女性を、誰が見ている?

黒い服の女性が桟敷席でオペラグラスを構え、奥に男性の姿が見える。
メアリー・カサット《桟敷席にて》、1878年、油彩・カンヴァス、ボストン美術館。画像:Wikimedia Commons(作品・利用条件)/パブリックドメイン。

オペラグラスの先には何がある?

劇場なので、舞台を見ていると思いたくなるところです。しかしボストン美術館は、コメディ・フランセーズの昼公演を描いたこの作品で、女性は向かい側の客席を見ていると説明しています。観客もまた、誰かが眺める対象なのです。ボストン美術館の作品解説

奥の男性を見つけると、関係が変わる

画面左上には、顔の前にオペラグラスを構えた男性がいます。館の解説は、この男性が手前の女性を見ている点にも注意を向けています。

ここで、女性だけを切り離して見たときと、男性も含めて見たときを比べてみてください。前者では「何かを見ている人」、後者では「見ながら、見られている人」になります。さらに、絵を見る私たちも彼女を眺めています。小さく描かれた一人に気づくだけで、画面の関係が組み替わるのです。

女性が男性の視線に気づいているか、その視線をどう感じているかは、絵だけでは決められません。心理を補う前に、目や道具が向く方向をたどる。それだけでも読みごたえがあります。

劇場は印象派の画家たちが取り上げた主題でもあります。ドガの記事とあわせて、舞台の側から見るか、客席の側から見るかで何が変わるか、比べてみるのも面白いでしょう。

《手紙》カサットが描いたのは、書く手より封をする手

青い模様の服を着た女性が、封筒のふたを口元へ持ち上げている。
メアリー・カサット《手紙》、1890〜1891年、多色版画、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、Corcoran Collection。画像:同館(作品・利用条件)/パブリックドメイン。

指と口元が教えてくれる、短い一瞬

女性は両手で白い封筒を持ち、上の折り返し部分を口元へ近づけています。机上には別の白い紙がありますが、ペンを走らせている場面ではありません。所蔵館の説明によれば、封筒の糊を湿らせているところです。ナショナル・ギャラリーの作品情報

「手紙」という題名から、つい文章の中身を想像したくなります。けれども、恋文なのか、用事を伝える便りなのか、宛先は誰なのかは分かりません。ここで確かめられるのは、送るための準備をしている手の動きです。

封筒を持ち上げ、口元に寄せる。この短い動作を取り出すことで、一枚の紙が誰かに届くまでには、こうした身体の作業があることに気づかされます。大きな出来事を描かなくても、日常の行為は絵の主役になるのですね。

模様の中で、白い封筒が目に留まる

青い衣服には明るい模様が広がり、背後の壁にも植物のような模様が繰り返されています。その中で、封筒は模様のない白い面です。両手と顔に囲まれた位置もあって、自然と目が留まります。

この作品は油彩ではなく、銅の板を使った複数の技法で色を刷り重ねた多色版画です。カサットが1890年にパリで見た日本版画から刺激を受けたことも、ナショナル・ギャラリーは紹介しています。同館による日本版画との関係の説明

デザインの視点で見るなら、模様の多い部分と少ない部分の差に注目できます。すべてを同じ密度で飾るのではなく、何も描かれていない面を残す。その対比が、伝えたい動作を見つける手がかりになっています。

《子どもの入浴》上から見ると、世話をする手がどう見える?

女性が子どもの身体を支えながら、たらいに入れた足を洗っている。
メアリー・カサット《子どもの入浴》、1893年、油彩・カンヴァス、シカゴ美術館。画像:Wikimedia Commons(作品・利用条件)/原作品パブリックドメイン、画像CC0。

顔から下へ、二人の動作をたどる

女性の膝に子どもが座り、二人とも下を向いています。女性の一方の手は子どもの腹部に添えられ、もう一方の手はたらいの中の足に触れています。子どもも女性の腕に手を置いています。

表情だけを見ると静かな母子像ですが、手をたどると「抱える」「支える」「洗う」という仕事が見えてきます。やさしさを抽象的な言葉で受け取るだけでなく、どこに触れ、どう身体を支えているのかという具体的な動作から味わえる絵です。

私たちの視点は、二人より高いところにあります。そのため、顔と腕だけでなく、足とたらいまで続けて見渡せます。上から見る構図は、世話の動作を一つの画面で確かめる助けになっています。

縞模様と床の模様を、いったん人物から離れて見る

人物の周囲にも目を向けましょう。女性の服には長い縞が走り、床には幾何学的な区切りと装飾が広がっています。身体の丸みが描かれる一方、模様は画面を埋める形としても目に入ってきます。

シカゴ美術館は、この作品の切り取られた形や強い輪郭、模様、平面的な空間表現を、カサットによる日本の木版画の研究と結びつけています。「浮世絵の影響」と一言で覚える前に、どの部分がそう見えるのかを探すと、借りてきた知識が自分の観察につながります。シカゴ美術館が提供する作品解説

絵の観察と意味の読み取りを考える記事でも扱うように、見えることと、そこから考えたことを分けると、解釈を確かめやすくなります。次に人物画を見るとき、顔の次に手へ視線を移してみませんか。そこには、どんな行為が描かれているでしょう。