絵の中に骸骨がある。「死の象徴だ」とわかったら、その絵の意味を読み終えたことになるのでしょうか。誰の隣に置かれ、何と組み合わされ、どんな場で見られたのか。同じものでも、周囲との関係を確かめると、問いはもう一段深くなります。

今回は、図像の意味を歴史や文化と結びつけて考えるイコノロジー(図像解釈学)を取り上げます。核心は、記号の答えを当てるだけでなく、その組み合わせが生まれた理由を問うことです。

この記事はAIが執筆しています。

この記事でわかること
・図像学と図像解釈学の違い
・観察・資料・解釈を分ける見方
・リーパの書物と現代の方法の違い

「何が見える」と「何を意味する」を分ける

ピーテル・クラース《ヴァニタスの静物》1630年。マウリッツハイス美術館。
ピーテル・クラース《ヴァニタスの静物》1630年。マウリッツハイス美術館。 パブリックドメイン。出典:Wikimedia Commons

まず、ピーテル・クラースの《ヴァニタスの静物》を見てみましょう。骸骨、本、時計、倒れたグラス。見えるものを挙げる段階では、まだそれぞれの意味を決めなくてかまいません。見落としていた物や、隣り合っている物に気づくことが出発点です。

次に、作品の主題や、描かれたものの慣習的な意味を調べます。所蔵館は、骸骨を死、消えたろうそくを人生の短さと結びつけて説明しています。ここでは、自分の連想だけでなく、作品解説や同時代の資料が読む手がかりになります。[1]

イコノグラフィー(図像学)とイコノロジー(図像解釈学)

絵の主題やモチーフを同定・記述する取り組みを、イコノグラフィー(図像学)と呼びます。そこから、その表現が歴史や文化の中でどんな意味をもつかを解釈する方向が、イコノロジーです。二つは密接に関わり、実際の用語の使い方も一様ではありません。境界を固定した別作業というより、見る問いの違いとして考えると入りやすくなります。[2]

ルーベンス《キリストから天国の鍵を授かる聖ペテロ》1610年代。ベルリン絵画館。
ルーベンス《キリストから天国の鍵を授かる聖ペテロ》1610年代。ベルリン絵画館。 パブリックドメイン。出典:Wikimedia Commons

例えば、鍵を授けられる人物を「聖ペテロ」と読むには、持ち物と物語の知識が役立ちます。しかし、その人物がどんな大きさで、誰との関係の中に描かれるかは作品ごとに違います。「誰か」がわかったあとにも、「なぜこう見せるのか」という問いが残るのですね。

名前を覚える先に、三つの問いを持つ

見方のヒント
ここでは鑑賞の手がかりを、三つの問いにしてみましょう。①何が見えるか。②どんな人物・物語・概念を示すか。③なぜこの時代、この場所、この組み合わせなのか。これはこの記事のための整理で、すべての作品に一つの正解を与える手順ではありません。

近代の図像解釈では、アビ・ヴァールブルクやエルヴィン・パノフスキーらの仕事が重要です。ただ、理論家の名前を知らなくても、観察と資料と解釈を区別することはできます。読み取った意味に、どんな根拠があるのかを一緒に確かめていきましょう。[2]

《大使たち》は、骸骨だけで読み終えられる?

ホルバイン(子)《大使たち》1533年。ナショナル・ギャラリー。
ホルバイン(子)《大使たち》1533年。ナショナル・ギャラリー。 パブリックドメイン。出典:Wikimedia Commons

ホルバインの《大使たち》には、地球儀、天球儀、楽器、書物などが並びます。足元の伸びた形は、斜めから見ると骸骨として現れる仕掛けです。死を意識させるものと、学識や地位を示すものが同じ画面にある。その対照に注目すると、品物の名前を知る以上の読みが始まります。

ナショナル・ギャラリーは、切れたリュートの弦や書物などを、当時の宗教・政治上の不和と結びつけて解釈しています。また、この肖像はディントヴィルの居城に飾られたと記録されています。誰が、どこで見る絵だったかも、図像を考える材料になるのです。[3]

作品に戻って、解釈を確かめる

ただし、「弦が切れているから作者は必ずこう考えた」と心の中まで断定はできません。画面で確認できること、記録にあること、そこから組み立てる解釈は分けておきたいところです。根拠が増えて読みが深まることもあれば、別の説明が必要になることもあります。

リーパ『イコノロジア』

リーパ『ノーヴァ・イコノロジア』1618年版、p.319の木版図。メトロポリタン美術館、43.121。
リーパ『ノーヴァ・イコノロジア』1618年版、p.319の木版図。メトロポリタン美術館、43.121。 パブリックドメイン。出典:The Met(Open Access)

西洋の多くの芸術家にとって、画中に寓意を示す場合お手本になったであろう書物があります。それが、チェーザレ・リーパの『イコノロジア』です。これは美徳や感情などの概念を、人の姿や持ち物でどう表すかをまとめた書物でした。1593年の初版には挿絵がなく、1603年の版で図が加わり、多くの芸術家のお手本となりました。[4]

読み取りの注意
同書は「概念をどんな姿にするか」を知るための歴史的な手引き。一方、近代以降のイコノロジーは「その図像がどんな意味をもつか」を研究する方法です。名前が似ていても、同じ時代に作られた同じ理論ではありません。リーパの本は、過去の表現を読むための資料の一つになりえます。

「わかった」を、次の観察の入口に

絵の小道具を知ると、作品が急に読めるようになる瞬間があります。その楽しみを入口に、少し先まで進んでみませんか。なぜ人物の足元なのか。なぜほかの品物と一緒なのか。見る人は、その意味を知っていたのか。

象徴の答えを集めるだけでなく、作品の中でどう働いているかを確かめる。イコノロジーは、そんなふうに「何が描かれたか」と「どんな世界で描かれたか」を行き来するための見方です。持ち物の読み方に関心があれば、『黄金伝説』と聖人の物語も、その手がかりになります。

参考資料

[1]Mauritshuis:Pieter Claesz, Vanitas Still Life。

[2]Davor Džalto, “Iconography and Iconology”, Oxford Research Encyclopedia of Religion(公開要旨)。用語の区別と主要研究者を確認。本文全体や邦訳からの引用ではありません。National Galleryの用語解説も参照。

[3]National Gallery:Holbein, The Ambassadors。

[4]The Metropolitan Museum of Art:Cesare Ripa, Nova Iconologia(1618)。1593年・1603年の出版経緯と掲載図版を確認。