「カオス」というと、何もかもが入り乱れた状態を思い浮かべます。では、ギリシャ神話の始まりに現れるカオスも、同じ意味なのでしょうか。

世界の始まりから神々の世代交代、ゼウスたちの戦争へ。物語の流れをたどると、激しく絡み合う身体を描いた絵画も読みやすくなります。この記事はAIが執筆しています。

この記事でわかること
  • カオスから生まれた神々の関係
  • クロノスからゼウスへ、支配者が変わる物語
  • ティタン族と巨人族の戦いを描く絵画の見分け方

カオスから生まれた闇と夜

ヘシオドスの『神統記』では、最初にカオスが生じ、次に大地のガイア、深淵のタルタロス、愛のエロスが現れます。カオスは、現代語の「大混乱」だけでは捉えにくい存在です。古代ギリシャ語の辞書には、広がる空間や深淵という意味も載っています。

ここで区別したいのは、登場する順番と親子関係です。カオスから生まれたと明記されるのは、闇のエレボスと夜のニュクス。さらに二神の結びつきから、天空の光を表すアイテールと昼のヘメラが生まれます。ガイアたちを一括して「カオスの子」とするのは、この記述とは異なります。

カオスからエレボスとニュクスが生まれ、二神の結びつきからアイテールとヘメラが生まれる相関図
カオスの相関図(イラスト:当ブログ制作)

父から子へ、支配者が交代する

ガイアは天空のウラノスを生み、二神の間にティタン族が誕生します。その一員クロノスは父を倒しますが、自分も子に王位を奪われると知り、生まれた子どもたちを飲み込みます。

妻レアが隠して育てた末子がゼウスです。父を倒した者が、今度は子の反逆を恐れる。この繰り返しが、クロノスの物語の軸になっています。

ゴヤは「飲み込む父」をどう描いたか

ゴヤの《我が子を食らうサトゥルヌス》(1820〜1823年、プラド美術館)は、この神話に結びつけられる作品です。サトゥルヌスはローマ神話でクロノスに対応する神。見開いた目、強く握る両手、闇に沈む背景が視線を引きつけます。

もとはゴヤの家「キンタ・デル・ソルド(聾者の家)」の壁に描かれた「黒い絵」の一つで、後にカンヴァスへ移されました。古典の筋書きを、そのまま図解した絵として見るだけでは収まらない迫力があります。

闇の中で目を見開き、両手で身体をつかむサトゥルヌス
フランシスコ・デ・ゴヤ《我が子を食らうサトゥルヌス》1820〜1823年。壁画をカンヴァスへ移したもの。プラド美術館蔵。画像:Wikimedia Commons(Public Domain)。 画像出典 / 作品情報 / ライセンス

ティタノマキアとは、神々の世代を分ける戦い

成長したゼウスと、父から解放されたきょうだいたちは、クロノスらティタン族と戦います。この戦争がティタノマキアです。『神統記』では、十年間も決着がつきません。

転機になるのは、百本の腕を持つ三体のヘカトンケイルの加勢。ゼウスの雷と、彼らが投げつける岩が敵を圧倒します。敗れたティタン族はタルタロスへ閉じ込められ、ゼウスを中心とする神々の支配へと進んでいきます。

コルネリス:落下する身体で敗北を描く

コルネリス・ファン・ハールレムの《ティタン族の転落》(1588〜1590年、デンマーク国立美術館)には、ねじれ、折り重なる身体が画面いっぱいに描かれています。空中の人々から手前の大きな背中へ、視線を動かすと落下の勢いを感じます。

ただし美術館の作品データは、ヘシオドスのティタン族の戦いと、オウィディウスの巨人族の反乱の両方を参照しています。作品名だけから、特定の原典を忠実に再現した絵と決めつけないことも大切です。

空から落下する人々と、前景に重なり合う筋肉質な身体
コルネリス・ファン・ハールレム《ティタン族の転落》1588〜1590年、油彩・カンヴァス。デンマーク国立美術館蔵。画像:Google Art Project/Wikimedia Commons(Public Domain)。 画像出典 / 作品情報 / ライセンス

「巨人の戦い」はすべてティタノマキアなのか

二つの戦いを区別

ティタノマキアはティタン族との戦い。ギガントマキアは巨人族ギガンテスとの戦いです。似た姿で描かれることがあっても、神話上は別の出来事として扱います。

ジュリオ・ロマーノ:部屋ごと崩れる「巨人の間」

マントヴァのパラッツォ・テにある《巨人の間》(1532〜1535年)は、巨人族の反乱を描く装飾です。オウィディウス『変身物語』の物語に基づき、壁と天井がつながる空間に神々と巨人たちが配されています。

北壁では、太い円柱が斜めに倒れ、巨人たちが建物の下に押し込まれます。額縁の中の落下を見る絵画と違い、鑑賞者の周囲まで崩れていくように見える構成です。床まで制作当初の状態で残っているわけではなく、現在の床は後世のものです。

倒れる円柱と建物の下に巨人たちが押し込まれる、巨人の間の北壁
ジュリオ・ロマーノ《巨人の間》北壁、装飾制作1532〜1535年、フレスコ。パラッツォ・テ(マントヴァ)。画像:Web Gallery of Art/Wikimedia Commons(Public Domain)。 画像出典 / 作品情報 / ライセンス

ルーベンス:小さな画面に押し込めた巨人の身体

ルーベンスの《巨人たちの墜落》(17世紀、ベルギー王立美術館群)も、ここでは巨人族を描く比較作として見てみましょう。板に油彩で描かれた、縦約27cm、横約43cmの横長の作品です。

中央には大きな岩塊の下で身体を曲げる人物が見え、その周囲にも手足が折り重なっています。明るい部分と岩の暗い塊を目で追うと、狭い画面の中に圧力が集中しているように感じられます。巨大な神話を伝えるために、作品自体が巨大である必要はないのです。

岩塊の下で身体を曲げる巨人と、その周囲に折り重なる人々
ピーテル・パウル・ルーベンス《巨人たちの墜落》17世紀、油彩・板、約27×43cm。ベルギー王立美術館群蔵。画像:The Yorck Project/Wikimedia Commons(Public Domain)。 画像出典 / 作品情報 / ライセンス

カオスの「混乱」と、神々の争いを分けて見る

オウィディウス『変身物語』の冒頭では、カオスは相反する要素が混ざり合う未整理の塊として語られます。ヘシオドスの神々の系譜とは、世界の始まりを語る角度が違います。「カオス」という言葉にも、参照する作品によって異なる姿があるのです。

絵画でも同じです。誰が誰と戦うのか、どの物語を参照するのかを確かめると、似て見えた落下の場面に違いが現れます。神々のつながりをさらにたどるには、ギリシャ神話大全もあわせてご覧ください。

鑑賞の手がかり

作品名、描かれた身体、根拠となる神話。この三つを行き来すると、激しい場面も「ただの混乱」ではなく、画家が組み立てた表現として見えてきます。