ティエポロが1746〜1747年にヴェネツィアのパラッツォ・ラビア大広間に描いた天井壁画《ペガサスに乗るベレロフォン》の前に立つと、首が痛くなる。縦横600センチの天井面に、白馬が一頭、空の真ん中で蹄を蹴り上げている。雲の上には雷光が走り、大きく広げられた翼の先端が画面の端まで届く。英雄ベレロフォンは馬の背で身体を反らせ、槍を振り下ろそうとしている——その下、画面の隅に、炎と黒煙に包まれた怪物の輪郭が見える。
目を凝らすと、馬の胸の筋肉が盛り上がり、翼の羽根1枚1枚が光を受けていることがわかる。ティエポロのロココは重力を忘れさせる。この画家は「空で起きていることを描く」天才だったが、ペガサスほど彼の筆を輝かせた主題はなかった。
ペガサスの誕生は奇妙なほど劇的だ。英雄ペルセウスがメデューサの首を刎ねたとき、その傷口から二つの命が滑り出した——白い翼を持つ馬と、黄金の剣を手にした巨人。「死から生が産まれる」というギリシャ神話の核心的なテーマを、ペガサスの誕生は完璧に体現している。
空を飛ぶ馬という概念は、文明の成立前から人間を魅了してきた。地に縛られた馬が翼を得る——それは「制限を超える」ことの視覚的表現として、古代コリントスから現代の企業ロゴまで脈々と生き続けている。ギリシャ神話大全で神々の全体像を把握しつつ、本稿ではペガサスの誕生から名画読解、現代的残存まで掘り下げる。
この記事はAIが執筆しています。
・ティエポロとルドンが描いた翼の意味
・翼・轡・英雄で見分ける方法
ペガサスとは——ポセイドンとメデューサの血を引く翼ある馬

ギリシャ名ペーガソス(Πήγασος)、英語表記Pegasus、ローマ神話でも同じ名で呼ばれる。「泉」を意味するギリシャ語「ペーゲー(πηγή)」が語源とされ、ヘシオドスは「大洋(オケアノス)の水源の近くで生まれた」ことから命名されたと記す。
司る領域は「天空の飛翔」と「詩的霊感」。美術・文学では「自由」と「上昇」の記号として機能する。
系譜: 父は海神ポセイドン(Poseidon)、母は怪物メデューサ(Medousa)。同母兄弟にクリュサオール(Chrysaor、黄金の刀を持つ巨人)。ペガサス自身に子はなく、生涯を英雄への奉仕とゼウスへの奉仕に費やした。後にゼウスはペガサスを星座ペガサス座(秋の大四辺形)として天空に留めた。
シンボル: 白馬の体、背中に広がる大きな鳥の翼(白または金)、黄金の轡(くつわ)。
ヘシオドス・ピンダロス・ホメロスが語るペガサス——原典ごとに違う物語を読む

ペガサスに関する最古の記述はヘシオドスの『神統記』(前7世紀末頃)第278〜286行にある。英雄ペルセウスがメデューサの首を斬ったとき、「傷口から翼ある馬ペーガソスが飛び出した」という。ヘシオドスはその名の由来を「大洋(オケアノス)の水源の近くで産まれたから」と説明する。この記述は簡潔で、誕生の瞬間だけを切り取っており、ベレロフォンとの関係には言及しない。
次に重要な記述はピンダロスの『オリンピア祝勝歌』第13歌(前5世紀)である。ここで初めてベレロフォンとペガサスの関係が詳述される。コリントスの英雄ベレロフォンはリュキア王からキマイラ退治を命じられ、女神アテナの夢告に従ってコリントスのペイレーネーの泉へ向かった。眠るペガサスを黄金の轡で捕らえたベレロフォンは天を駆け、獅子の頭・山羊の胴・蛇の尾を持ち火炎を吐く合成獣キマイラを討伐した。ピンダロスはこの場面を戦勝の比喩として用い、ペガサスを「努力が報われる瞬間の乗り物」として位置付けている。
ホメロスの『イリアス』第6歌(前8世紀頃)はキマイラについて記述するが、ペガサスの名前は明示しない。ここではベレロフォンが「天翔ける馬に乗り」キマイラを倒したと示唆するにとどまる。
オウィディウスの『変身物語』(1世紀)ではペルセウスがペガサスに乗ってアンドロメダを救出する場面が劇的に描かれる。これは古典期ギリシャ神話にはない要素で、ローマ時代に付け加えられた脚色だ——古典のペルセウスはペガサスに乗らず、ヘルメスから借りた翼の靴で飛んでいた。この混同は後代の美術に深く影響し、ルーベンスをはじめとする多くの画家がペルセウスとペガサスを組み合わせて描くことになる。
なお、ペルセウスはメデューサの首を使って、途中で立ち寄ったアトラスを石に変えたとオウィディウスは伝える——翼の靴で飛ぶ英雄・石化する巨神というモチーフが、ペガサスの誕生をめぐる物語群を構成する一部だ。
ペガサスの最期はどうなったか。ベレロフォンが傲慢にも「オリュンポスまで昇ろう」と天を目指したとき、ゼウスは虻(あぶ)を送り込んでペガサスを刺させた。驚いた馬は跳ね上がり、ベレロフォンを振り落とした。ペガサス自身はそのままオリュンポスへ到達し、以後は神の雷霆(いかずち)を運ぶ役割を担った。最終的にゼウスはペガサスを星座として天空に留めた——これが秋の星座ペガサス座である。
ティエポロ《ペガサスに乗るベレロフォン》——ヴェネツィアの天井でキマイラを討つ

ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ《ペガサスに乗るベレロフォン(Bellerophon on Pegasus)》、1746〜1747年、フレスコ、縦横各600cm、パラッツォ・ラビア大広間天井、ヴェネツィア。
この作品を見るには文字通り仰向けにならなければならない。600センチ四方の天井面に、画家は空の深度を作り出した——中央のペガサスを光で照らし、周囲の雲を段階的に暗くすることで、翼馬が本当に上昇しているように見える。ベレロフォンの肉体はルネサンスの彫刻的理想から外れ、コントラポストの緊張がキマイラへの一撃の重さを体現する。ロココの軽やかさと古典神話の戦闘が、この天井の上でぶつかり合っている。
背景のプットーたちがトロフィーや花輪を手に飛び回る中、画面中心のペガサスだけが「動いている」——翼の羽根が風に逆らってたわんでいる様子が、馬の速度と上昇力を可視化している。ティエポロが18世紀の大規模壁画プロジェクトとしてこの作品に選んだテーマが「ペガサスとベレロフォン」だったことは、この天馬がヨーロッパ文化の「栄光の象徴」として18世紀にもなお有効だったことを示す。
ルーベンス《ペルセウスとアンドロメダ》——エルミタージュに眠る黄金の轡

ピーテル・パウル・ルーベンス《ペルセウスとアンドロメダ(Perseus and Andromeda)》、1622年頃、油彩・カンヴァス、エルミタージュ美術館所蔵(サンクトペテルブルク)。
画面左手に白馬ペガサスが描かれ、プットーが黄金の轡を持って引き留めようとしている。ルーベンスはオウィディウスの『変身物語』のローマ的解釈に従い、ペルセウスとペガサスを組み合わせた——先述のとおり、古典ギリシャ神話ではペルセウスはペガサスに乗らない。この選択は17世紀の「神話のローマ化」という受容史的現象を反映している。
右側のアンドロメダの白い肌とペガサスの白い体が画面のリズムを作り、英雄の勝利と贖罪という主題を二重写しにする。ルーベンスのペガサスは純白で胸の筋肉が盛り上がり、左前脚を上げて制止を受けている——動きを止められた翼馬という図像が、「救出された直後の静止」を演出している。
ルドン《囚われのペガサス》——1889年の象徴主義が描いた制限された翼

オディロン・ルドン《囚われのペガサス(Captive Pegasus)》、1889年、油彩・カンヴァス、シカゴ美術館所蔵(イリノイ州)。
ルドンにとってペガサスは生涯のテーマだった。1880年代から1900年代まで、木炭画・パステル・油彩と技法を変えながらこの翼馬を描き続けた。《囚われのペガサス》では縄で縛られたペガサスが地上にいる——翼を持ちながら飛べない状態が、象徴主義的な「霊感の拘束」を表す。
ルドンの翼馬は神話のキャラクターではなく、詩人・芸術家が内側に感じる飛翔への衝動の具体化だ。暗い地面の色調と翼の白さが、抑圧と自由の対比を際立たせる。縄の存在は、才能を持ちながらも社会や内的障壁に縛られている状態を指し示す——これは19世紀末の芸術家が共有した感覚だった。
ルドン《ペガサス》——グッゲンハイム・ビルバオを照らすパステルの光

オディロン・ルドン《ペガサス(Pegasus)》、1895〜1900年頃、パステル・紙、グッゲンハイム美術館ビルバオ所蔵(スペイン)。
《囚われのペガサス》から10年、ルドンは縄を外した。この作品のペガサスは画面いっぱいに翼を広げ、濃厚な青と金のパステルの中を疾走する。晩年のルドンが到達した「内なる宇宙の可視化」が最も鮮明に現れた作品のひとつで、キマイラも英雄もいない——馬と翼と光だけが残る。
ルドンがパステルという画材を選んだことは偶然ではない。擦り込まれた粉の粒子が光を散乱させ、「輪郭が曖昧な光の塊」を作り出す。この曖昧さがペガサスを現実の生き物から「光の動き」へと変換し、象徴の純化を助けている。ルドンが描いた多くのペガサスの中で、この作品は「上昇そのもの」を主題にした最も純粋な例だ。(上掲は同時期の関連作品。グッゲンハイム・ビルバオ所蔵パステル原作はパブリックドメインでの画像公開が未確認)
トーヴァルセン《ベレロフォンとペガサス》——新古典主義の大理石が刻んだ信頼の瞬間

ベルテル・トーヴァルセン《ベレロフォンとペガサス(Bellerophon and Pegasus)》、1801〜1823年頃、大理石、メトロポリタン美術館所蔵(ニューヨーク)。
デンマークの新古典主義を代表するトーヴァルセンが選んだのは「ベレロフォンがペガサスを手なずけた直後」の場面だ。英雄は大きな翼馬の背に片手をかけ、身を寄せるようにして立っている——まだ跨っていない、その一歩手前。大理石の白さが二つの存在を等価に置き、英雄性よりも「人と動物の信頼」という瞬間を前景化している。
飛翔の直前の沈黙がこの彫刻の核心だ。ティエポロが「飛翔する動き」を選んだのに対し、トーヴァルセンは「動く直前の静止」を選んだ。新古典主義の大理石は動かないから——ゆえに「これから飛ぶ」という予感こそが最も強い緊張を生み出す。
カール・ミレス《人とペガサス》——1949年の青空に伸ばした手

カール・ミレス《人とペガサス(Man and Pegasus)》、1949年、ブロンズ彫刻、箱根彫刻の森美術館所蔵(神奈川県箱根町)。
スウェーデンの20世紀彫刻家ミレスが作ったこの作品は、高い台座の上でペガサスが前脚を上げ、人間がその背に乗ろうとする——文字通り「人が神話に手を伸ばす」瞬間を捉えている。力学的計算のもと微妙なバランスで台座に取り付けられており、実際よりも軽く見える。
箱根の空を背景に見るこの彫刻は、神話の天馬が20世紀の野外彫刻を通じて現代人にとっての「夢の重力」を具現化していることを示している。ミレスは彫刻を野外の光の中に置くことにこだわった——美術館の白い壁ではなく、移ろう空と光の中で見られることを意図した作品だ。
美術館でペガサスを見分ける——翼・轡・英雄の組み合わせで読む

- 翼: 背中に一対の鳥の翼(白または金。古代彫刻では省略されることがある)
- 轡(くつわ)・手綱が金色: アテナから英雄ベレロフォンに与えられた黄金の轡を示す
- 騎手がベレロフォン(武装した若い英雄)なら「キマイラ退治」の場面。ペルセウスなら「アンドロメダ救出」だが、これはローマ的脚色(オウィディウス由来)
- 炎を吐く合成獣(キマイラ=獅子の頭・山羊の胴・蛇の尾)の存在は「ベレロフォン+ペガサス」の特定に役立つ
- 縄に縛られたペガサス: 象徴主義絵画(ルドンなど)の特徴。霊感・詩・自由の拘束を示す
- ムーサ(詩の女神)と共に描かれる場合はヘリコン山の泉と詩的インスピレーションの文脈
- 騎手のいない白馬: ルドン以降の象徴主義に多く、「純粋な飛翔衝動」を表す
古代コリントスの硬貨から18世紀ロコまで——ペガサス図像が辿った2500年

ペガサスの最古の造形表現は前7〜6世紀のコリントス式陶器に見られる。この時期、コリントスはベレロフォンの故郷として知られており、街のスタテル貨幣にもペガサスが刻まれていた——現代でも「紋章動物」としてのペガサスはこのコリントスの伝統を引き継ぐ。
古典期アテナイでは、ペガサスはパルテノン神殿のメトープ(浮彫)にも登場し、「秩序対混沌」(英雄対怪物)の図像学的枠組みに組み込まれた。ヘレニズム期(前323〜前31年)に入ると、ペガサスはマケドニア王権の象徴としても使われ、「翼のある力」が帝国的イメージと結びついた。
ローマ時代にオウィディウス(前43〜後17年)が『変身物語』でペルセウスとペガサスを結びつけてから、この翼馬は英雄性の総称となった。ローマの葬祭美術ではペガサスを不死のシンボルとして用い、石棺のレリーフに刻まれた——「死んでも天へ飛ぶ」というイメージだ。
中世ヨーロッパではペガサスの神話は異教のものとして抑制されたが、寓意的な文脈——「詩的精神の昇華」として生き延びた。ダンテの『神曲』にはペガサスへの言及がある。
ルネサンス期に入ると、ペトラルカが「栄光の戦車」の寓意にペガサスを使い、古典の復権とともに視覚的に復活した。16〜17世紀に詩のアカデミー(アカデミア・デッラ・クルスカなど)がペガサスを紋章にしたことで、以後ペガサスは「文学・芸術のインスピレーション」のシンボルとして定着した。
19世紀象徴主義——ルドンがペガサスを「内なる翼」に変えた転換点

18世紀のティエポロらが英雄物語の絵画言語でペガサスを描いたのに対し、19世紀の象徴主義はペガサスの意味を根本的に転換した。ルドン(1840〜1916年)は1880年代から「縛られたペガサス」「飛翔するペガサス」を繰り返し描き、神話のキャラクターではなく「詩人の内側の衝動」としてこの翼馬を再定義した。
グスタフ・モロー(1826〜1898年)の《ヘシオドスとムーサたち》(1870年)にも白いペガサスが背景に描かれており、詩の霊感源としてのペガサス像が19世紀フランス象徴主義で共有されていたことがわかる。この転換——外部の英雄物語から内部の詩的衝動へ——が20世紀の「ペガサス=想像力・芸術」という現代的イメージの出発点となった。
ASUS、ペガサス座、英語のPegasus——天馬が日常に残した痕跡

語源・英語: 英語でPegasusは固有名詞として使われるが、「空飛ぶ馬」「翼ある馬」の代名詞として機能する場合もある。ラテン語経由でそのまま英語に入り、形が変わらない。
天文学: 秋の星座ペガサス座(Pegasus)は北天の広大な四辺形「ペガサスの大四辺形」で知られる。アルファ・ペガシ(マルカブ)・ベータ・ペガシ(シェアト)・ガンマ・ペガシ(アルゲニブ)と、アルファ・アンドロメダエ(アルフェラッツ)の4星が秋の夜の目印となる。この大四辺形を基点にして、アンドロメダ座とその先のアンドロメダ銀河(M31)を見つけることができる。
企業・ブランド: 台湾のPCメーカーASUSの社名はPegasusの後ろ4文字「ASUS」に由来する(「革新」「翼のある速さ」を意図)。航空会社ペガサス航空(トルコ)もこの翼馬から命名。ガソリンスタンドのモービル(Mobil)の旧ロゴには赤いペガサスが使われていた——「地球上あらゆる場所へ燃料を届ける」という意味で採用され、現在でもレトロデザインとして認識される。
イスラエルのスパイウェア「Pegasus」(NSO Group開発)が「すべてを超えて飛ぶ」能力の比喩として名付けられたことからも、「ペガサス」という名が持つ「制限を超える」含意がいかに強力かがわかる。
アイキャッチ画像:南イタリア(アプリア)《赤絵式オイノコエ:ベレロフォン・ペガサス・キマイラ》前4世紀頃・ターラント国立考古学博物館/撮影 Mark Landon(CC BY 4.0)を加工して使用。
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