2025デザイン研究第6回授業概要


リサーチの目的

車は、私たちの生活を支える移動手段であると同時に、私たちの価値観や時代のトレンドを映し出す「走るデザイン」です。今回は、普段何気なく目にしている車の形や機能が、どのような背景から生まれてきたのかを探っていきます。車のデザインは、単に格好いい、美しいといった表面的な美しさだけでなく、その裏にある技術の進化、人々の生活様式、そして文化や歴史の変遷を読み解く鍵となります。

第1回授業でも少し触れましたが、なぜ現代の電気自動車にも、空気を取り込む必要のないフロントグリルが残っているのか?なぜヘッドライトは「目」のような形をしているのか?その根底にある「私たちの記憶と文化のかたち」を掘り下げていきましょう


見出す方向性

自動車のデザインは、機械工学から美学まで、非常に多岐にわたる要素が絡み合っています。リサーチを深めるために、以下の3つの視点からアプローチすることをおすすめします 。

技術的・法的要因

これまで調査してきたどのプロダクトよりも、技術的、あるいは法的要因が大きく関わる分野となります。これまではデザイナーたちが抱える文化的要因や、トレンドに左右されるものを扱ってきました。しかし車には必ずしも当てはまりません。

まず、デザインの特徴として、大きいものほど普遍的なスタイルを好む点があります。小物よりインテリア、それより建築と、大きくなるほど奇抜な形や個性的な色味を避ける傾向にあると言えるでしょう。一方で現代ではその普遍性も少し解かれ、少しずつ個性的なものが好まれる場面もあります。

時代変革特徴
初期 (19世紀末)馬車の延長上フォードT型初期モデル
1920年代頃ライン作業による生産効率の向上デザインは一面的だが品質は安定したフォードT型
1950年代安全基準の交渉クランプルゾーン(衝突時に潰れる仕様)メルセデス・ベンツW120 Ponton
1970年代以降石油ショックによる
燃費規制
空気抵抗を減らす流線型デザインスポーツカーなど
2000年代以降LEDやHIDなどの光源技術の進化ヘッドライトの形状が多様化アウディR8
2010年代EV化の進展デザインの制約が大幅に減少、ボンネットが短くなり室内が広く電気自動車(EV)
ハスラー、Noneなど
社会的・経済的要因

モータリゼーションの進展、大衆車の普及、石油ショック、環境問題など、その時代の経済状況や人々の消費行動が、車のデザインにどのような影響を与えたかを比較することができます。特にオイルショックやバブル崩壊は車デザインを大きく変化させました。さらに現代では所有する車からシェアする文化へと変化しており、そのため汎用性が高くオーソドックスなデザインが好まれるようになりました。

時代概要特徴
初期 (19世紀末)馬車の代替品富裕層向けの贅沢品だった
1920年代頃フォードシステムにより
大衆へ普及
画一的なデザインとカラー(黒)が採用された
1950年代戦後復興と好景気個性を重視したデザインの中高
1970年代以降石油ショック流線型デザイン、軽量化と小型化
1990年代バブル経済崩壊後ミニバンや軽自動車など、多様なライフスタイルに合わせた車種が普及
2010年代以降シェアリングエコノミー所有するから必要な時に利用する文化へ
デザイナーの背景

ときに名車とは、しばしばカリスマ的なデザイナーによって生み出されてきました。彼らの出身地や思想、師事した人物、そして過去の作品との比較から、そのデザインがどんな文化的要因に影響されているのかを探ります 3。たとえば、フェルディナンド・ポルシェやジョルジェット・ジウジアーロといった巨匠たちが、いかに時代のデザインを牽引してきたかを見ていきます。

フェルディナント・ポルシェ

Ferdinand Porsche
・1875-1951年
・ポルシェの創設者
大衆車からスポーツカーまで、時代を象徴する車を創り上げた、稀代のエンジニアでありデザイナー

バッティスタ・ファリーナ

Battista Farina
・1893-1966年
・ピニンファリーナの創設者
フェラーリの歴代モデルなど、数々の名車を手がけ、イタリアンデザインの黄金時代を築いた

ブルーノ・サッコ

Bruno Sacco
・1933年 –
・メルセデス・ベンツの元デザインディレクター
「時代を超越する普遍的なデザイン」という哲学を掲げ、メルセデス・ベンツのデザインアイデンティティを確立した。

マルチェロ・ガンディーニ

Marcello Gandini
・1938年 –
・カロッツェリア・ベルトーネのデザイナー
ランボルギーニ・ミウラやカウンタックなど、ガルウィングやクサビ形といった未来的なデザインでスーパーカーの概念を塗り替えた。

ジョルジェット・ジウジアーロ

Giorgetto Giugiaro
・1938年 –
・イタルデザイン・ジウジアーロの創設者
・直線と平面を基調とした「折り紙細工」のようなデザインで、現代的な車のスタイルを確立した。1999年にはカー・デザイナー・オブ・ザ・センチュリー賞を受賞

主な車メーカー
メーカー名特徴
フォルクスワーゲンドイツ固めのシートやグリップ式のハンドルなど、運転に集中できる質実剛健な設計が特徴
TOYOTA日本耐久性が高く世界中に信頼される。ハイブリット技術に優れる
HONDA日本広い室内空間、新しい技術に挑戦する姿勢が特徴
日産日本世界初の量産型EV、軽EVなど
SUSUKI日本軽自動車やコンパクトカーなど
MAZDA日本美しいデザインと走行距離に高い評価がある
メルセデス・ベンツドイツ高品質で静粛性があり、高級感のある車づくりが特徴
TESLAアメリカ革新的なEV技術とシンプルなデザインが特徴。自動運転技術の先進性
アルファロメオイタリアスポーティーな走りと、盾をモチーフにした特徴的なフロントグリルが魅力
BMWドイツエンジンと走行性能に優れ、スポーティーな運転体験を重視している。
フィアットイタリアコンパクトで個性的なデザイン
MINIイギリス、ドイツクラシックなデザインを現代的にアレンジしたコンパクトな車が特徴
ポルシェドイツ高性能なスポーツカー。「911」シリーズはスポーティーな運転体験を重視
フェラーリイタリアレーシングカーをルーツに持つ高性能スポーツカー
ランボルギーニイタリア独特なデザイン、強いパワーを持つスーパーカーメーカー
ジャガーイギリス美しいデザインと洗練された走行性能をもつ高級スポーツカーメーカー
ロールス・ロイスイギリス最高級車メーカー、車内では腕時計の秒針音しか聞こえないという逸話があるほど
パガーニイタリア最高級車メーカー、走る芸術品と呼ばれる

現代の車は、もはや単なる移動手段ではありません。私たちの生活様式、社会的なステータス、そして未来へのビジョンを体現するものです。今回の研究を通して、単なる「乗り物」としての機能を超えた、カーデザインの奥深さに触れてみましょう。

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