前回のおさらい
感想
1930年代アメリカのデザイン史、特に国際様式、ニューバウハウス、MoMAについて学んだ授業の感想を述べています。全体的に新しい知識への驚きと興味を示しており、特に「グッズ」概念の歴史的起源、フォトグラム等の写真技法、装飾を排した建築様式への関心が高く見られます。感想の質は多様で、深い考察を示すものから簡潔な印象まで幅広かったです。
- 歴史的発見への驚き
- 技法・手法への関心
- 現代との関連性認識
- 実体験への意欲
- デザイン思想への考察 など
質問など
- Q小学生の頃、MOA美術館のコンテストによく応募していました。MoMAと関係はありますか?
- A
MoMA風に略した美術館は意外といっぱいあります
MOT=東京都現代美術館
SFMOMA=サンフランシスコ近代美術館
MOMAT=東京国立近代美術館 など
- QImmeuble Clarteの家賃は高いですか?
- A
おそらく高いですね。高級住宅地なので。実際の価格は見つかりませんでしたが、相場は50万くらい
異国の影響に焦点をあてる本講義
日本のデザイン史を理解するには、明治維新以前から続く豊かな「ものづくりの文化」から紐解いていくことが重要です。現在「デザイン」と呼ばれる概念が生まれる以前から、日本には独自の美意識と技術が深く根づいていました。
本授業では特に、異国の影響にフォーカスをあて、日本文化の特異点を発見していきます。なぜなら今後話していくデザインとは、日本にとっては海外から輸入した概念だからです。

そもそも日本にとっては、美術という言葉も明治維新後の西洋文化を取り入れた段階で誕生した用語です。fine artの日本語訳として発展した「美術」は、現在日本や中国で使われる用語となりました。

日本のものづくりの文化には、「美術」も「デザイン」もありませんでした。それを代替する言葉として、「巧」「工」などが使われています。つまりたくみに作られた品を指し、またその人を指します。西洋と異なり、ある特定の天才に依存し、その名声を高める方向には向かず、無名の職人が豊かに成熟した背景を持っています。

明治期のデザインの概念

現在の「デザイン」の形成につながる考えとして、明治期の資料を取り上げます。
現在の東京大学、一橋大学、東京芸術大学などの母体となった東京工業学校工業図案課では、上記の教育理念が掲げられていました。さらに当時の図案学科の教授である安田の発言をまとめています。初期の段階から、美しさと密接につながっていることがわかりますね。
日本が明治時代に行った経済戦略としての「美術」「工芸」
なぜ日本のデザイン(の元となった工芸の考え方)は美しさと密接につながっているのでしょうか。これまでの授業でいうと、米国ではそもそもデザインとアートに繋がりがありませんでした。さらに西洋では日本のように職人の技術が基礎にあったにもかかわらず、アートと工芸をつなぐためには大きな論争や葛藤が埋めいていました。
アーツ・アンド・クラフツ運動と比較すると多少時代が異なるという点も、もちろん挙げられますが、今回はその戦略の違いについて見ていきましょう。
明治政府の経済戦略としての「美術」

- 外貨獲得の必要性:開国したばかりの日本は、西洋の技術や文物を輸入するための外貨が絶対的に不足していました
- 伝統工芸の活用:日本が西洋に対して優位性を持てる分野は、長年培ってきた伝統工芸品でした
- 「日本的なもの」のブランド化:万国博覧会への参加を通じて、日本独特の美意識を世界に売り込む戦略を取りました

有田焼は明治以前から海外からの評価が高い伝統工芸品の1つです。その技術の高さ、圧倒的な美的意識が一般庶民も手に取れる焼き物の分野で発揮されている例です。

ジャポニズムの影響は西洋の絵画にも及ぼしており、日本がこの反応を見て、工芸をアートの領域で打ち出そうと戦略をたてた要因にもなりました。
日本独自の「工芸」概念の成立

西洋の産業革命と日本の近代化は、同じ「工業化」という名前でありながら、その本質において全く異なる道筋を辿りました。この違いこそが、なぜ日本の工業図案科が美的意識を重視せざるを得なかったかを理解する鍵となります。
西洋では、産業革命の影響下で急激な人口増加と都市化を背景に持っています。従来の手工業では到底追いつかない大量の受容を抱えていました。いかに安く早く大量に作れるかは死活問題だったのです。
一方日本では、職人技術を活かした工業化を選択しています。明治維新は武士階級が解体され、高度な技術を持つ刀装金工師や蒔絵師といった職人たちが大量に職を失いました。この技術を、政治戦略としてはアートとして昇華し、また工業の分野ではいかんなく発揮されたのです。
日本美術は、海外の刺激を混ぜてオリジナル化する傾向にある
日本美術史を紐解くと、一つの明確な傾向が浮かび上がります。それは、外来文化を単純に模倣するのではなく、日本独自の美意識でフィルタリングし、全く新しいオリジナル作品として昇華させる能力です。この「文化的錬金術」とも呼べる特性は、日本美術の最大の特徴であり、同時に強みでもあります。

