2025デザイン史第15回授業概要

グローバルデザイン&ローカルデザイン

グローバルデザインとローカルデザインは対立しない?デザイン史から学ぶ本質

「グローバルデザイン」と「ローカルデザイン」この2つの概念は、しばしば対立するものとして捉えられがちですが、実はそうではありません。グローバルとローカルの考え方を深ぼっていきながら、デザインの本質をみていきましょう


グローバルデザインとは?

国境を越え広く受け入れられるデザインを目指したもの

グローバルデザインとは、文化や地域、国境を越えて広く受け入れられることを目指したデザインのことです。ここで重要なのは、「目指したもの」という点です。完璧なグローバルデザインは、まだ存在しないのかもしれません。

グローバルデザインを構成する要素として、以下の3つが挙げました。

  • 普遍性(Universality):特定の文化や言語に依存せず、誰にでも理解できる性質。
  • モジュール化(Modularity):異なる状況でも互換性を持ち、様々に組み合わせて使用できる性質。
  • 汎用性(Versatility):様々な用途や状況に対応できる性質。

普遍性:ピクトグラムから考える

普遍性の良い例として、オリンピックのピクトグラムが挙げられました。

2024年パリオリンピックと2020年東京オリンピックのピクトグラムを比較すると、それぞれのデザイン思想の違いがよくわかります。

  • 東京オリンピック:人間の動きや体に焦点を当てて作成されています。
  • パリオリンピック:ボールや競技場など、より俯瞰的な状況を描写しています。

どちらも普遍性を目指していますが、アプローチは異なります。このように、一見グローバルに見えるデザインにも、地域性や思想が反映されているのです。

また、ピクトグラムの歴史を辿ると、元々は文字が読めない労働者への教育目的で開発された「アイソタイプ」という概念に行き着きます。教育者であり哲学者のオットー・ノイラートによって考案されたもので、言語の壁を越えたコミュニケーションツールとして生まれました。

モジュール化:IKEAの家具

モジュール化の例として、IKEAのフラットパック家具があります。

フラットパックは、家具を分解して梱包することで、輸送コストを大幅に削減し、これまで家具を届けられなかった地域にも流通を可能にしました。これは、互換性のあるパーツを組み合わせることで、多様な状況に対応するモジュール化の好例です。

IKEAの組み立て説明書も、文字に頼らずピクトグラムを用いることで、言語の壁を超えて誰にでも理解できるように工夫されています。

汎用性:iPhone

iPhoneは、音楽プレーヤー(iPod)、電話、インターネット、カメラ、財布、ゲーム機、さらには身分証明書としての機能まで、一つのデバイスに多様な機能が集約されています。様々な用途に対応できるこの特性こそが、iPhoneが世界中で受け入れられた要因の一つです。

2. ローカルデザインとは?

一方、ローカルデザインは、特定の地域や文化に根ざしたデザインです。グローバルデザインが「誰にでも」を目指すのに対し、ローカルデザインは「特定の誰か」に深く寄り添います。

ローカルデザインのポイントは以下の3つです。

  • 地域性(Regionality):特定の場所や風土に特有の特徴を取り入れること。
  • 特異性(Peculiarity):文化や独自の価値観を反映させること。
  • 伝統と革新のバランス(Tradition and Innovation):伝統を守りつつ、新しい要素を取り入れること。

地域性:隈研吾の建築

地域性の例として、建築家の隈研吾氏建築をあげました。

彼はその土地の気候や地理的特徴を活かし、現地の素材を積極的に利用することで知られています。

東京の「サニーヒルズ南青山店」では木の柱を、中国にあるホテルでは竹を使用するなど、それぞれの場所の風土に合った建築素材を選んでいます。これは、鉄筋コンクリートの高層ビルが主流の国際建築とは異なるアプローチであり、地域の文化や環境に深く根ざしたデザインと言えるでしょう。

特異性:Francfrancのペルソナ

特異性の例として、インテリアブランド「Francfranc」のペルソナが紹介されました。

「都会で一人暮らしをする25歳のOL、給料は20万円、部屋はワンルーム」という具体的なターゲット(ペルソナ)を設定することで、その人物のライフスタイルに寄り添ったブランドを形成しています。

このように、特定の顧客像を明確にすることで、独自の価値観やライフスタイルを反映させたデザインを生み出すことができます。

伝統と革新のバランス:パリ五輪の開会式

https://www.youtube.com/watch?v=rU3shk92Enk

伝統と革新のバランスは、2024年パリオリンピックの開会式を例としてあげました。

マリー・アントワネットに扮した演者が断頭台で首を切られるという、フランス革命の歴史をモチーフにした衝撃的な演出は、まさに伝統を現代的に解釈し、革新的な表現として昇華させた一例です。


グローバルはローカルの集合である

グローバルデザインとローカルデザインは、異なるものではなく、お互いに影響し合う関係にあります。

各地域のローカルなデザインの中から、誰もが共感できる「普遍性」を見出すことでグローバルデザインが生まれます。そして、グローバルなトレンドの中から、新たなローカルデザインのヒントを得ることもあります。

過去にはアメリカが世界の中心となり、トレンドを牽引していましたが、近年は中国やアフリカ経済の拡大など、世界のパワーバランスは多様化しています。文化的なグローバルの立ち位置も、一つの中心から複数の中心へと広がりつつあります。

これからの時代、私たちは「グローバルはローカルの集合である」という意識をこれまで以上に持つ必要があるのかもしれません。

Sponsored Links
google.com, pub-6177307831535485, DIRECT, f08c47fec0942fa0